第12話 戦争前夜の喫茶店にて

とにかく空が異様に青く、綺麗であった。


歩いて行き、適当なクラシカルな印象のあるカフェに入り、アメリカンコーヒーを注文、窓際のカウンター席に座る。


眺めの良い席であり、非常に晴れ渡った空を見ることができた。


午前11時であり、席はかなり空いていた。


しかし、コーヒーも注文せずに、その男、髪の毛はボサボサ、無精髭を生やし、目は虚ろ、常に涎を垂らしている中年男性は、なぜか私の隣に腰を下ろした。


饐えた臭いがした。


汚い黒いダウンジャケットを着て、下にはぼろぼろのハーフパンツ。もさもさと生えているスネ毛を剥き出しにしていた。


男は、私の横に座り、何を言うこともなく、じっとしていた。


私は嫌な気持ちがしたから、無視し、美しい空を眺めながら、アメリカンコーヒーを啜った。


「去年、私の乳首は謎の虫に刺されて肥大化しましたよ。」


早口で、男は臭い息を吐きながらそれだけ言うと、つかつかと、店から出て行った。


非常に、青く、透き通るような美しい空で、私は、しばらくの間、呆然としながら、アメリカンコーヒーを啜っていたのだ。

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