第19話 戦火

 辺り一帯が暗くなっている。フェリシティは突然起こった強い風に体ごと跳ね飛ばされ、床に倒れ伏していた。何が起きたかわからず、上体を起こし辺りを見渡すと他にも多くの人たちが倒れている。そして、今まさに乗ろうとしていた軍港に繋がる長いオートウォークが瓦礫に埋もれていた。


 アムレート市を円状に取り囲むクレーターの山脈部を隔てて外側にある宇宙軍港。そこが攻撃を受け、衝撃波が宇宙軍港とターミナルを結ぶトンネルを伝い、クレーターの山脈部の内側にあるターミナルに爆風となって押し寄せた。


 ターミナルの至る所で天井と内壁が崩れ瓦礫やガラスの破片が散乱、その場にいた多くの人たちが負傷している。


 危うく難を逃れることができたフェリシティは、幸い足に擦り傷を負った程度ですんだ。


 あたりは騒然となっている。照明が落ち暗くなったターミナル。宇宙港へ続くトンネルが崩落し完全に塞がれてしまっている。


「レ・ディ・ネーミは⁉」


 警報が鳴り響く中、フェリシティはよろよろと立ち上がり、立ちすくむ。軍港のターミナルゆえに軍人たちばかり、非常時の対応で皆がすでにきびきびと動き出している。と、一人の女性軍人が駆け寄ってきた。


「あなた大丈夫、ケガはない?」


「はい、足にちょっと……ケガしただけです」


「ちょっと待ちなさい」とその女性軍人が手際よく足の傷口を手当てしてくれた。


「ありがとうございます」


「あなた軍人じゃないわよね。どうしてここに?」


 フェリシティは首にかけてあったH.E.R.I.Tヘリットスタッフの通行証を見せる。その女性軍人は納得し、ここは危険だからと非難するよう指示される。


「あの、船は大丈夫でしょうか?」


「あれじゃ、向こう側がどうなっているかわからいわね」

 女性軍人は崩落したトンネルを指さし告げる。


「どこか通れる場所はないでしょうか?」


「無理よ、危険だわ。通れたとしても軍艦が停泊しているのだから、いつ誘爆がおきるかわからいの、危険すぎる。今はとても近づけない。とにかく、あなたはシェルターに早く避難しなさい。いいわね」そう言ってその人はすぐに他の人たちの救護へ向かう。


「どうしよう……そうだ!」


 フェリシティは緊急時の安否確認コードを教えられていた。


 手帳を取り出すとコードを入力して、自分の安全を艦に知らせる。するとすぐに〈レ・ディ・ネーミ〉からコールがかかってきた。


『繋がった! フェリシティ、無事だったのね』

 コールをかけてきたのは、ポリーナ・グリンスカヤ。まだ19歳ながら、〈レ・ディネーミ〉の航宙指揮官で階級は中尉。まだ3回程度しか顔を合わせたことはなかったが、フェリシティに気さくに話しかけてくれていた。共通する〝事情〟と年齢も近いこともあって、フェリシティにとって姉のような存在になっていた。


「リーナこそ、よかった。みんなは無事?」


『ええ、みんな無事よ、ただ……艦が損傷して、すぐに脱出できない状況なの。おまけに通信が繋がらなくて、H.E.R.I.Tヘリットの人たちの状況もわからないの』


「なんとかしてそっちへ行きます――」


『ダメっ‼ 危険だから今こっちに来ちゃダメ』

 ポリーナがすかさず止める。


『フェリシティさん、副長のサストリーです』

 通信の映像に副長のサストリー中佐も入る。こちらも27歳の若さで〈レ・ディ・ネーミ〉の副長にして階級は中佐、智徳俊英の人物。


『無事でよかった! こちらは危険です。大破した艦が多数、黒煙が立ち込めています。あなたはそのままH.E.R.I.Tヘリットのみなさんの元へ向かってください。そちらであなたもピックアップします』


「はい、わかりました」 


『これからレ・ディ・ネーミは準備ができ次第、港を出航し、クレーター・リム外側を迂回して〝例〟の施設へ艦を直接ランディングさせます。あなたは先に行って、このことを皆さんにお伝えしてもらえませんか。ただし、危険だと思ったらすぐ諦めてシェルターに避難して下さい。いいですね』


「はい、お気をつけて」


『ありがとう。あなたもどうか気を付けて』


『フェリシティ、気を付けてね。向こうで落ち合いましょ』

 サストリー副長とポリーナにモニター越しに見送られ、フェリシティは〈レ・ディ・ネーミ〉からの伝言を伝えるため、H.E.R.I.Tヘリットスタッフたちのいる軍の秘密施設に向かって走り出す。

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