第4話 愛しいあの人のもとへ
常につきまとう死の恐怖に、心が折れそうになっていた。誰かが側にいてくれないと安心できない。
幼少の頃から一人でいる事はわりと好きな方だった。しかし今は突然心臓が止まり、死んでしまうのではないかという恐怖が常に頭から離れず、今は一人でいることが、怖くてたまらない。気持ちを落ち着けたくて、誰かにすがらずにはいられない。あの人の側にいることが、今は何より安心できる。
その人は部屋の片隅に
彼女の顔を見た途端、張りつめていた糸が切れたように、緊張と不安が一瞬で解け、安らぎを感じる。
大人な彼女は落ち着いて、がっつく
彼女はじらすように、シャツのボタンをひとつひとつゆっくりと外していく。
彼女のきめ細かな白い肌が露わになっている。その覗く肌はてらてらと、妖しく光を反射していた。
目のやり場に困り、視線を
しかし同時に彼女の体を見ていて切なくなる。今まで一体、どれほどの男たちに
散々、男たちのオモチャにされてきたのだろう。彼女の受けてきた痛みと苦しみを思うと胸が締め付けられる。そんな体になりながらも健気に、献身的に、今もなお、男たちに尽くしている
吐息がかかりそうなほど彼女の顔が近づく。いよいよか、と期待を膨らませ
そして、耳元で囁かれる。
『異常ナシ』と。
寮備え付けのメディカルロボ。表面は全身、光沢感のある白色の塗装を施された樹脂素材で覆われた人型ロボット。顔の部分はモニター画面になっていて、人間の表情を簡易的に表現している。医療用の各種センサーが備え付けられ、簡単な検査ができるように改造された
『異常ナシ――異常ナシ』
『体温、血圧、脈拍――、正常、正常』
『アナタ健康ハデス、アナタハ健康デス』
おまけにAIも旧式過ぎて言葉も片言。
イラっときて、頭を小突きたくなったが、寮生のアイドルにそんなことはできない。
寮備え付けのメディカルヒューマノイドロボット通称メディ子。工科学校が設立され、この寮が完成した時から寮生たちの健康管理を一身に引き受けてきた。
頭にはカツラが乗せられ1週間おきに髪型が変わる。現在はサイドテールで、その上にナースキャップもかぶせられている。その体の至る所に、幼稚でいかがわしいラクガキが、数えきれないほど書き込まれている。歴代の寮生たちがやらかしてきたイタズラの痕跡が彼女の全身に見受けられた。
その、同情を誘う悩ましいボディには、毎日クリーニングされた清潔なナース服が着せられている。真っ白なナース服から透けて見えるブラジャーのライン。スカートをめくってみると、三角の布もしっかりと
(ポンコツAIのメディ子が自分でこんなものを用意できるわけがない。しかも、可動域の限られるあの手足じゃ、自分で着ることも無理なはず。じゃあ、誰が……?)
これらは一体、誰の私物で、そして何者の仕業なのか、ほぼ毎日訪れる櫂惺でさえ、未だ謎のままであった。
そうしてしばらくの間、波乱に満ちた人生を
パイロット候補生ということもあり、この寮は一人につき一室が与えられている。
「寮に入った当初は嬉しいものだったけど、しかし今は、いつ死ぬかわからない、という恐怖で一人でいることがすごく怖いと感じる……体に異常は無いって何回言われてもなぁ、胸の辺りに違和感あるし、ひどい痛みに襲われるときもあるし、心臓に異常がるように思えてならない……」
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