第3話 原因不明

 SWG輸送艦の艦橋から状況を見ていた部隊長の刀島とうじま少佐が、訓練中止の命令を出す。


 櫂惺かいせいはすぐに意識を取り戻したが、機体は大破し、仲間たちの機体に支えられながら母艦に回収される。


「大丈夫か、カイッ⁉」

「待ってろ! 今出してやる」


 格納庫に着くと、すぐに仲間たちが駆け寄り、櫂惺かいせいは機体から担ぎ出される。刀島とうじま少佐も駆けつけ容体を確かめる。


「意識はあるな。霧笛きりふえ、ケガの状態は?」


「……ケガはありません、申し訳ありません……機体を、大破させてしまいました……」


「そんなことはいい。すぐに医務室へ!」刀島とうじま少佐の指示で部隊の仲間たちが素早い動きで担架を準備する。


 自分のせいで大事な訓練が中止になってしまった。情けなさで涙が出そうになる。一人で歩くこともままならず担架に寝かされ、医務室へと仲間たちに運ばれる。


 医務室へ担ぎ込まれるとすぐに、メディカルロボットによる検査が始まり、すぐに診断結果が出た。


『異常なし』と。


 全身に多くの打撲が見られるものの、脳や内臓に何の異常も見つからない。命に別状なしとの診断結果に櫂惺かいせいは安心し落ち着きを取り戻す。自然と今までの胸の痛みや息苦しさも治まっていく。


 しかし、かたわらにいた刀島とうじま少佐は合点がいかない様子。疑問に思うのも当然だろう。さっきまであれほど胸を押さえながら苦しんでいたのに、身体のどこにも異常は見当たらないのだから。


「お前本当に大丈夫なのか、一体何があった?」


「あ、はい……その……」


――もう隠し続けることはできない。


 これまで原因不明の体調不良に悩まされながらも何とか訓練を受けてきた。しかし今日、とうとう自分の意志ではどうすることもできないほどの状態に陥ってしまった。何とか根性で乗り切ろうとしてはいたが、もはや体が言う事を聞いてはくれない。 


 以前から様子がおかしいことは周囲に気づかれていたし、教官たちからもコンディションについて指摘されていたが、ただの体調不良と言って今まで押し通してきた。しかし、さすがに今回の件で明確な説明を求められるはずだ。


(もう、ごまかせない……)

 

 一般教育の授業や、軍事訓練を受ける中で、原因不明の体調不良に悩まされるようになって3カ月、最近では常時、胸のあたりがざわざわと、ざわめくような違和感を感じるようになっていた。


 初めは貧血のような症状で、少し休めば回復したものだった。寮のメディカルロボットに診てもらっても異常はなかった。だからそのうち治るだろうと、そう思っていた。


 しかし症状は治るどころかどんどんひどくなっていく一方で、原因不明の体調不良

が毎日続くようになっていた。ひどい倦怠感と意識がはっきりしない感覚、何より心臓が弱っているような感覚に悩まされる。


 朝、起きた時などふらついて、立つことさえひどく辛いこともあった。あまりの辛さに学校を休みたいと思ったが、部隊全体に迷惑が掛かるためSWGの訓練を休むわけにはいかない。


 たとえ休むにしても風邪をひいているわけでも、熱が出ているわけでもないため、体調不良を証明しようがなかった。


 事実、寮備え付けのメディカルロボットに診察してもらっても『異常ナシ』と伝えられる。若干血圧が低くなっていることもあったが、そんなこと気の持ちようでどうにかなると一蹴されるのがオチだ。 


 何とか踏ん張って学校に行けば、万全とは言えないものの、動けるくらいには体の調子は戻ったものだった。


 そうして、体調不良が常態化してからこの1か月、だましだましやってきたが、ついに今日、それは起こった。


 心臓が今まで感じたことがないくらいバクバクと拍動し、死んでしまうのではないかという恐怖に襲われた。失神しそうな感覚と体中に痙攣けいれんが起こり、操縦桿そうじゅうかんを握れなくなって墜落、挙句の果てに大事故を起こしてしまった。


「……打撲だけで済んだのが奇跡だな、軍用SWGの頑丈さに助けられた。何よりドラグーンのAIが衝撃を和らげるため、咄嗟に適切な動作を取ってくれたおかげだ」


 大破した自分の機体を見て尚更そう思う。実機訓練を始めてからずっと一緒にやってきた愛機、生命とは言えないけれども、人間と同じように会話し行動できるそれは、もう相棒と呼べる。その相棒のボロボロとなった姿を見て、また申し訳なさが込み上げてくる。


 コンピュータをはじめ主要な部品がすでに取り外され、スクラップ行きとなった愛機に呼びかける。


「……ごめん」


 返答がないとわかっていても、櫂惺かいせいはその言葉を告げずにはいられなかった。

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