測定試験の結果
「それではこれよりゼスト君の魔力測定を行います」
ルナリアの測定結果の後、ゼストの魔力測定が行われる事になる。王女であり、勇者の子孫でもあるルナリアの後の測定結果という事もあり、注目を集めていた。
教師は魔晶石を掲げる。ルナリアの時と同じく、ゼストの魔力が測定されるのだ。
事態を予見しているゼストは、目の前の現実から目を背けるようにして、瞳を閉じた。
「……どうしたんだ?」
「なんか、黙り込んで、何も言わねーけどよ」
周囲が騒めき始める。
いつまでも結果が報告されないので、怪訝に思われたのだろう。
測定試験を行っている教師は数人いた。集まって談義を始めていた。
「これ……何かの測定ミスじゃないですかね? 魔力測定の結果が0なんて初めて見ましたよ」
「け、けど。何度やっても同じ結果ですし。それに、他の生徒達の魔力は正しく測定できていたわけじゃないですか」
「じゃあ……やっぱり、そういう事なんですか」
ゼストの魔力測定の結果が告げられる。
「ゼスト君……魔力『0』です」
周囲が騒めき始めた。ルナリアの時と同じく。ただ、その騒めきの後、ルナリアは羨望の眼差しを集めたが、ゼストは嘲笑を受ける事になる。
「マジか……『魔力0』なんて、始めて聞いたぜ」
「魔力なんてもの……この世界では誰もが当然のよう授かっているものだと思った」
「そんな奴もいるんだな……」
抗弁などしても無駄だ。現状で何を言ったところで、ゼストの負け惜しみ、言い訳にしかならない事だろう。だからゼストはその嘲りの言葉に対して、ただただ、黙って耐え忍ぶ以外になかったのである。
「全く……魔力がないのですか、この男は。そんな体たらくなのに、なぜこの王立冒険者学院に、彼は来ているのでしょうか」
ルナリアは溜息交じりに苦言を呈する。
次は実技の試験だ。実技試験の内容とは、剣などの武器を用いた、実戦形式の試験である。魔力測定が先ほど行われた為、魔法は使用されずに、物理攻撃を主にした対決が主になる。
「それでは続いて、実技試験を行います」
ゼストの対戦相手はルナリアだった。
「へっ……あの魔力0の無能やろうがルナリア様と対決するのか」
「こいつは見物だな」
ルナリアの対戦という事で、周囲の人々の注目を一心に集めていた。その対戦相手が魔力測定で前代未聞の『0』という数字をたたき出した、ゼストなのである。
猶の事、注目を集めざるを得ない。
「それでは始めてください」
教員に指示され、二人は実技を始める。ルナリアもゼストもお互いに剣を持って向かい合う。
「はああああああああああああああああああああああああ!」
先陣を切ったのはルナリアだった。掛け声と共に、ゼストに斬りかかる。
(来る……)
前世賢者であるゼストは剣の類を一切触れていなかった。現世でも、義父とチャンバラ遊びをしてきただけだ。
勇者の血を引くルナリア。そしてルナリアは相当に剣の教育を積んできたのだろう。
この勝負は明らかに分の悪い勝負だった。
「くっ……」
「なんだ……あいつ」
「魔力もないくせに、剣もてんで大した事がねぇ」
「まあ、仕方ねぇか。あれはルナリア様が特別すぎんだよ。魔法の力だけじゃねぇ、剣の腕も一級品よ。魔法が宮廷魔法師並みなら、剣の腕は王国騎士団長並みだ」
「話に聞くと、ルナリア様は幼い頃から剣術を習っているらしい。そして、その上で王国騎士団長と直接剣を交える機会もあるらしい……最初からモノが違うんだよ」
「……だよな。あれは今の俺達とじゃ、レベルが違いすぎるわ」
キィン!
ゼストの剣が弾かれた。くるくると舞い、そして地面に突き刺さる。
「そこまで! 実技試験をやめてください」
「くっ……」
やはり、正当な剣技を習っていたルナリア相手に、チャンバラのような剣技では通用しなかったか。
「魔法の適性もない……その上に剣もまともに扱えないなど、あなたは何をしにこの学院に入学しようというのですか?」
ルナリアは冷酷な目で告げてくる。だが、ゼストには言い返す言葉などない。
「まあいいです……」
ルナリアは剣を納めた。こうして測定試験は終わっていった。
◇
後日。冒険者学院でのクラス分けが発表される。А~Fクラスまでの発表だ。
当然のように、魔力測定でも実技試験でも良い結果を出せなかったゼストはFクラスに振り分けられる事になった。このクラスは同時に、学院内での等級(ランク)も現す。ただのクラス分けというだけではない。
学院内ではそのランクによって、扱いが変わってくるのだ。暗黙の了解のように、学院内にはランクによるヒエラルキー。そして差別意識が明確に存在していた。外の社会と同じように。
Fランクとはつまりは最底辺のランクだ。このFランクからゼストの学院生活はスタートされる。
だが、ゼストの逆転劇はここから始まっていくのである。そしてその逆転劇は学院に旋風を巻き起こしていくのであった。
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