冒険者学院に入学する

「ふう……ここが王都か」


 随分と変わっていた。王都アースガルズ。多くの人々が行き来している。前世の記憶では、これだけ多くの人々が行きかうような都市はなかった。


 人類の繁栄には平和が不可欠だ。命の危機に晒され続けている状況下では種の繁栄は望めない。それだけ、この1000年間が平和だったという事だろう。勇者アレクのパーティーと闘い、そして勝ち取った平和でもあった。今の時代ともなれば過去の話である。誰が称えるというわけでもないが、ゼストからすれば誇らしい事でもあった。


 感慨に耽っている暇などない。ゼストは王都の冒険者学院を目指して、歩き始める。


 ◇


「ようこそ……王立冒険者学院へ。あなたが新入生のゼスト君ね」


 冒険者学院の理事長室にゼストは入室した。そこにいたのは美しい女性だった。理知的な女性だ。まだ若い。見た目からするに、20代の女性にしか見えなかった。想像していた理事長とのギャップに、ゼストは驚かされた。


「私は理事長のアリシアです……ゼスト君。あなたの入学を歓迎いたします」


 理事長アリシアは柔らかい物腰でゼストを出迎えた。細かい入学手続きは事前に済まされていた。入学金の支払いなど、諸々の事務手続きだ。


「それではゼスト君。この学院での生活を充実したものにしてちょうだいね」


「はい……三年間、よろしくお願いします」


「それから、事前にわかっている事だとは思うけど、この学院には入学時の振り分け試験があるの」


「振り分け試験ですか……は、はい。勿論です」


「簡単な魔力測定と剣技の試験で、クラスを振り分けるわ……基本的にそのクラスから移動する事はないんだけど、特例的に移動もありうるの。クラスはАからFまで。Аクラスの方に優秀な生徒が集められているという理解で間違っていないわ」


 ――こうして、ゼストは入学するに当たって、他の生徒を交えて測定試験を受ける事になった。


 だが、この測定試験が波乱の幕開けだったのである。


 ◇


 測定試験には多くの学生達がいた。正確にはこれから冒険者学院に入学するので、入学予定者なのかもしれないが。そういう細かい事はさておき、クラスを振り分ける測定試験が行われる事となる。


 まずは魔晶石による魔力測定だった。嫌な予感がした。なぜなら、この魔力測定はゼストが生まれたばかりの頃に、実父に行われた測定試験だったからだ。その際にゼストの魔力は0と測定され、激昂した実父に捨てられたという過去がある。


 1000年にかかる魔法体系の変化で、ゼストの魔法の力は測定されなくなってしまったのだ。その結果、ゼストの魔力は0として測定される事になる。


「それでは次、ルナリア・マーガロイドさん」


「はい」


 前に出たのは見覚えのある少女だった。金髪をした凛とした少女。間違いない。彼女はあの時、馬車に乗っていた少女だ。颯爽と盗賊達を斬り伏せた、剣の達人でもあった。


 彼女を見て、周囲の人々がざわつき始めた。


「ルナリア様だぞ……」


「だ、誰だよ。あの美人」


「お前、ルナリア様を知らないのかよ?」


「し、知らないけど」


「隣国マーガロイドの王女様にして……何でも1000年前に世界を救った勇者パーティー……勇者アレクの血を引く、末裔らしいぞ」


「へ、へぇ……それは凄いじゃないか」


 周囲のざわめきは止まらなかった。


「あら……あなたは」


 彼女も、ゼストの事を覚えていたようだ。ゼストの前に立ち止まる。


「あなたもこの学院に入学するのね」


「……ええ。そうですが。あなたは王女様だったのですね」


「ええ……そうですが。この学院には王族かそうでないかなど、関係がありません。実力が全てです。私が王族かどうかなど、気にする必要はないんですよ」


「……そうですか」


「それでは、魔力測定を始めます」


 教職員により、ルナリアの魔力が測定される。その結果は驚くべき数値であった。


「魔力3125です!」


 その測定結果に、周囲はどよめいた。


「魔力3125……」


「な、なんだよ。それ、高いのか? 低いのか?」


「低いわけがねぇだろうが! ものすげぇ高いんだよ!」


「高いって言われるだけじゃわかんねぇよ……」


「例えるなら、3000って数字は宮廷魔法師に選ばれてもおかしくない位の数字なんだよ。3000以上の魔力は、もう賢者と呼ばれても不思議じゃない位。学生の身分からすれば考えられない程に、高い数字なんだ」


「へぇー……すげぇな。流石勇者アレクの血を引いているだけの事はある」


 周囲の者達は感嘆とした溜息をもらす。

 

 それに対して、ルナリアは表情ひとつ変えなかった。慣れているのだろう。彼女にとっては周囲から羨望を集める事など、日常茶飯事なのだ。


「……それでは次、ゼスト・マナホーク君」


「はい……」

 

 マナホークとは育ての両親の性だ。ゼストはこの性を名乗る事にしていた。本来の性は既に捨てたようなものだ。


 こうして、ゼストの魔力測定が始まったのだ。






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