盗賊に襲われている馬車と出くわす

「……っと。こっちの方だな」


 ゼストは王都を目指して歩く。大きなリュックサックを担いで。


「ん?」


 王都に向かう途中の事だった。馬車が通りがかる。


 ヒヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!


 突如、馬の悲鳴が上がった。


「へへへっ……」


 いかにも粗暴そうな数人の男達が馬車を襲っていた。盗賊達である。


「間違いねぇ……この馬車は王都の王族の馬車だ」


「高そうな金品を相当持ってるに違いねぇ」


「それだけじゃねぇ、中に王族がいるなら、人質にして身代金を沢山貰ってやるぜ!」


「へへっ……大金貰えたら、一生贅沢三昧して、こんなみみっちい生活とはおさらばだっ!」


 盗賊達は身勝手な事を言っていた。


 当然のように、こんな事を見過ごせるわけがなかった。ゼストは助けようと馬車の元へ向かう。


 ――だが。馬車からは一人の少女が姿を現す。金髪をした凛々しい少女だ。気品のある少女ではあるが、ただ品があり、美しいというだけではない。腰には剣を携えており、可憐なだけではなく、凛としたような強さを感じ取れた。


 鋭い目つきは盗賊達を目の前にしていても微動だにすらしていない。


「へっ……なんだ、その澄ました面は!」


「俺達にビビってねぇのかよっ! ああっ!」


 盗賊達はナイフなどの刃物を見せびらかし、威圧するが、少女の表情は僅かばかりの変化も見せなかった。


「野郎ども! やっちまえ!」


「「「おおっ!」」」


 掛け声が響く。そして、数人の盗賊達が少女に襲いかかった。


 ――だが。少女は腰から剣を抜いた。


「な、なに!」


「ぐ、ぐわぁ!」


 一瞬の事であった。少女の流れるような剣技により、盗賊達は一瞬にして崩れ去ったのである。


「……姫様。お見事であります」


 執事のような男が褒めたたえた。初老程度の男だった。彼女の付き人であろうか。


 姫様――。盗賊達も王族の馬車だとか言っていた事から、彼女は王女なのだと思われた。


「この程度の相手、剣の練習にすらなりません。軽い運動にしかなりませんでした――ん?」


 彼女はゼストを見止めたようだ。


「あなたは――もしかして、私達を助けようとしたのですか?」


「そのつもりだったんだが――その必要性もなかったな」


「ええ……見ての通りです。無駄な心配でしたね」


「姫様……用事があるのです。ここで無駄な時間を使っている場合ではありません」


「そうですね……セバス。再び馬車を走らせなさい」


「はっ」


 彼女は馬車に乗り込む。名前も知らない彼女だった。馬車が走り出した。ゼストは一人、その場に取り残される。


「うっ……ううっ」


「いてぇ……いてぇよ」


 盗賊達は痛々しい姿にはなっていたが、治してやる義理などない。自業自得なのだ。しばらくその場で反省していればいいとすら思う。


「いけない……俺も王都に向かわないと」


 ゼストは王都を目指し、再び歩き始める。


 ――だが、ゼストが先ほどの彼女と再会するのに、それほどの時間はかからなかった。


 王立冒険者学院でゼストは再び彼女と出会う事となる。



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