第15話 眼鏡っ子危うし


 生徒会でボランティア活動を提案する上で、将来医者になりたいという設定が必要になった。その結果、バカ丸出しの俺のために、生徒会室での勉強会が続いた。


 生徒会の眼鏡っ子、もう名前が思い出せないが通称「書記ちゃん」は、ケイくんケイくんとやたらと弟のように可愛がってくれた。若干ボディタッチが多い。英語の得意な子を連れてくると言って、友人の帰国子女の女子を連れ込んで、放課後の生徒会室でいつもいちゃいちゃしていた。二人は付き合ってるようだった。

 最初は自重していたが、そのうちその友人が退屈したのか、二人して俺の目の前でキスするのを見せつけるようになった。次第に胸を揉んだりスカートの中に手を入れたりとどんどんエスカレートしていった。

 書記ちゃんは見せつけて、俺が目を逸らしたりするのを楽しんでいたが、友人のほうはガチ百合だった。というか俺は明らかに嫌われていた。早く失せろという意味合いで見せつけていたのだ。


 ある日、こういうのはもう嫌、とケンカが始まって生徒会室を追い出された。帰ろうにもカバンが生徒会室に残ったままなので、話し声がしなくなったのを見計らって隣の教室の窓から覗いたら仲直りクンニの最中だった。あまりよろしくない表情で書記ちゃんが唇を嚙んでいる。きっとこういうのも見て欲しいんだろうな、と思ってずっと眺めていたら、目を開けた彼女と目が合った。少しあって、泣き出した。

 スカートの中から顔を出した友人が、幾つか言葉を交わすとチラッとこちらを見、そのまま生徒会室を飛び出し、俺のほうに走ってきた。顔を真っ赤にし罵声を浴びせてきた。彼女の唇が濡れているのがよく見えて、不覚にも匂いを嗅いでみたいと思ってしまった。一歩近づいた瞬間に平手打ちを貰った。


 生徒会室に戻ると、書記ちゃんはクンニされていたままの場所でしゃがんで泣いていた。泣いていてよく聞き取れなかったが、彼女は俺が好きだからもう無理と友人に伝えたようだ。まあそういう流れだったよな、と思いながら、泣き続ける彼女をゆっくり立たせた。いま求められているのは恐らくこういうことだ。つまり、


 俺は一気にスカートをめくったのだ。して、意外なものが見えた。


「え、これ何? スケスケ?」

 

 そこから涙ながらに説明してくれたがいちいち面白かった。勉強会に集まるようになってから、二人きりで生徒会室に籠ることが増えたこと。密室状態が災いしてどんどんエスカレートして、次第に陰部まで触れてくるようになったこと。だが直に触られるのが怖いと訴えたら、あの友人がわざわざ用意してくれたのがそのスッケスケのパンツらしい。その代わりにクンニを約束させられた。良く分からないが、今日はその約束のクンニの日だったとか。

 そういうの、約束してするんだ。それも生徒会室で。感心する俺にはまだその手のプレイの知識は無かった。

 放課後に履き替えて準備してたら、俺が早く来てしまったのでコトに至れず友人は怒っていた。うん、わからん。というか律儀に説明してくれるんだ、そういうの。あと、流れで俺に告ったのに気づいてるんだか気付いてないんだか。


 幾つかの刮目すべきパワーワードを教えてくれた書記ちゃんは半泣きで、必死にスカートを押さえるさまはひどく嗜虐的に見えた。


「じゃあさ、それ脱いじゃいなよ」


 あれ、違ったみたいだ。屠畜業30年のベテランは、暴れる豚をきっとこんな目で見るんだろう。そんな優しい目をしている。

 さんざ濡れ場を見せつけておいて。


「ごめん言い直す。捨てなよ、そんなの。怖かったんでしょ?」

「ケイくん違うの」


 首を振る。ぜんぜん違うそうです。


「じゃあ俺に脱がしてほしい?」

「…なんでそんな話になるの?」

「もう必要ないよね、今の話だと。嫌だったんじゃないの?」


クンニ用パンツ、というパワーワードを口にするのは憚られた。


「……」

「俺にもして欲しいとか?」


 全力で首を振る。これは明らかに違うっぽい。直観だがさっきスカートをめくったときの顔は不正解でもなかった気もする。


「見て欲しかった」


 首振り人形が止まった。


「見せつけたかった?」


 首をかしげる。無自覚なのか。泣き止んだか呼吸が落ち着いたようなので、話をずらした。


「どんなに見せつけて挑発しても、怒ったり手を出したりしないと思ってた?」

「挑発って言うとちょっと違って」

「先輩ぶりたかったとか?」

「ケイくんの反応が見たくて」

「で、こうして怒らせた、と」

「……」


 いや、全然怒ってないけどね。意趣返しのひとつぐらいはかましておきたい。


「で、メガネの先輩は放課後の生徒会室で後輩の男の子に逆襲されてパンツを脱がされてしまうわけだ」


 具体的に言葉で状況を説明するのがその手の被虐的なプレイのプロトコルのひとつだとは知らなかったが、効果的だった。耳まで真っ赤にしている。加虐的なことにさほど昂奮する質ではないが、相手が望んでいることを察するのは得意なほうだと思っていた。


「メガネ外して?」


 うん、書記ちゃん、これからキスでもされるのかという期待に満ちた顔で見られても困る。っていうか、いたく従順だ。


「両手で目を隠して、何があっても絶対目を開けちゃダメ」


 スカートのすそを詰まんで軽く上に引っ張る。


 ビクッと動いて表情が固まる。が、逃げない。両膝に軽く触れる。意外とワクワクしてきた。

 スカートの上から腿の輪郭を撫でるように上に指を動かしていく。小さく悲鳴が上がるが書記ちゃんの手は動かない。腰骨のあたりで止めた。昂奮で汗ばんでいる。


「いま、スカートの中に手が入ってる」


 いや、入ってないですけどね。すごい膝がガクガク動き出して腰が抜けそうになってる。腰骨から尾てい骨のほうまでそっと手をまわして、軽く爪を立てて、お尻のほうからスカートを引っ掻いてみた。

 割と大きな悲鳴が出る。まだ目は隠したままだ。


「ゆっくりいくよ」


両方の腰骨のあたりを下に向けて爪で掻くように触る。ちゃんとパンツ脱がされてると錯覚してくれているだろうか。書記ちゃん、全力疾走かというぐらい息が荒い。女の子の匂いが強烈に増した。

 ゆっくりと、左右を交互にずらしながら爪を下げていく。太ももの真ん中あたりまで来たところで腰が抜けて崩れ落ちた。

 そのまま両膝からくるぶしまでを指でなぞると、最後にちょっとだけ両足のかかとを持ち上げ、引っ張るようにして落とした。


「もういいよ」


あれだけお姉さんぶっていた書記ちゃんが、ハツカネズミのように小刻みに震えている。部屋の隅で震える、羞恥心を塗り固めて作ったネズミの絵だ。勢いだけで描いたが俺の絵だ。自分のモノになった気がした。ずっと校庭から聞こえていたはずの部活の声がものすごく遠くなる。自分の鼓動が良く聞こえる。これ、好きってことかもしれない。



     * * *




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