第10話 カウンセリング
父は週末に小学校に呼び出されて、夜遅く帰ってきたが、そのときにはもう壊れていた。
だいぶ後になってからハインラインの映画をテレビで見て、ああ、こんな感じだったな、と思い出し、その時から父は宇宙人に身体を乗っ取られた哀れな生き物になった。
父は学校で担任に子供の心のケアについて、要はカウンセリングを受けるよう指導されたはずだ。
スクール・カウンセラーによると、おれはその後も毎日のように学校帰りに亡くなった純の部屋に入り浸って、ずっと純が帰ってくるのを待っていたらしい。家に誰もいないときは、玄関でずっと待っている姿を多くの人が目撃していた。
その指導のときに父は余計なことを吹き込まれたようだ。小学校の4年間で、おれと特に親しかった友達だけがすでに3人死んでいる。それなりに異常だ。そして父にはもう2人の心当たりがあった。
* * *
我が家の玄関に立ち尽くすランドセル姿の子供を見かけたとき、純の母親は、それを見て一度は逃げた。駅前まで戻って、気持ちを落ち着かせ、ヨークマートの特売のワゴン内にあった菓子を適当に掴むとレジの長い列に並んだ。我が子を失った悲しみよりも罪悪感に苛まれていた。
あの家に戻りたくなくて、時間を潰そうと飛び込みで美容院に入った。そういえば初七日の前日からずっと髪を切っていない。鏡に映る自分の顔を見てギョッとした。喪服がダブダブなわけだ。何キロ落ちたのだろう。
だが同時に自分を客観視できた。我が子の死を受け入れられず、自分の時間を止めてしまった友達に私は何ができるだろうかと考えた。その一方で、母親である私より我が子に執着するあの子を追い払いたいとすら願っていた。
髪の毛が入ったのか、それともタグがこすれるのか、背中が痒くて落ち着かない。そういえば、下着なんてもう何年も買ってない。自分のために何かすることすら忘れてしまっていた。結婚する前に鏡に向かってよく唱えていた歌を呟く。
きらめきを足せ、足せ、足せ、その胸に。
日も落ちて、外灯も付いていない我が家の前に、あの子の姿は無かった。ホッとして門扉を開けると、玄関の横に座り込んで寝ているあの子が見え、飛び上がり
買ったばかりの下着の包みが転がった。このどす黒い感情は何だ。恐怖と怒り、罪悪感、そして嫉妬。この子のように狂ってしまえば楽なのに。この女の子のように整った顔の呪いの人形を徹底的に
* * *
純の母親が身籠った。それを境に、ケイはようやくその死を受け入れたようで、パタリと訪れなくなったと報告があった。無事出産したと聞き、言う必要はないかなとは思ったが、そのタイミングで学級会で伝えた。驚きと喜びの声が上がったが、女子には代用品作ってんじゃねーよと不評だった。ケイは知っていたようで興味無さそうにしていた。
* * *
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