感情を知らない女5

 私は幼い頃から学習してきた。

 普通の人間ならば、学習しようとしない事まで学習してきた。具体的に例を上げるならば、生物の解剖だ。

 初めて解剖したのは、カマキリだった。メスカマキリの頭をもぎ取り、カッターで腹を裂いた。

 腹の中には卵のような物体が無数に存在していた。産卵前のカマキリだったのだろう。

 解剖し終えたカマキリを私は食べた。腹が減っていた訳ではない。味を学習する為に食べたのだ。

 昨日は鳩を解剖した。

 公園で捕まえた鳩を家に持ち帰り、私は万能包丁で鳩の頭を叩き落とした。解剖後の味の学習も怠ってはいない。

 これは私が学習した事を忘れない為に書き留める学習ノートである。そして、自叙伝でもある。

 私の名前は園山美玲。性別は女』


 ドアが開く音を聞き、美玲はペンを置いた。


「美玲…どうした電気も付けないで」


 壁にある電気のスイッチを入れながら、平山竜二が部屋に入ってきた。


「自叙伝を書いていた」


 美玲は振り返り、閉じたノートを竜二に向かい突き付けた。


「へぇー自叙伝か、見せて見せて」


 竜二は彫りの深い顔に笑顔を作り、美玲に近付いた。


「自叙伝は完成途中で見せる物ではない。それを私は学習済みだ」


 美玲は表情一つ変えず、ノートをパジャマの下に隠した。


「そうだな。完成したら見せてくれ」


 美玲の子供のような行動を見て、竜二は顔をしわくちゃにして微笑んだ。


「分かった、完成したら見せよう。それを私は約束しよう」


 美玲は、竜二に小指を立てた右手を突き付けた。

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