第18話

「キャ…」


A子は必死で口を押さえ、目を閉じようとした。しかし薄い瞼の間からMが倒れていくのを見た。機械的にバットを握る男の横で、Mは左のこめかみを下に勢いよく倒れていった。


「すぐ終わるから、落ち着いて。段取りは頭に入っているね」

「…はい、わかっています」


A子は絞るように声を出した。

男の白くなったうすい短髪の間から、サラサラと額に向けて汗が落ちていた。彼は血のついたバットを壁に立てかけ、Mの両肩を担ぎベットに近づけ、まるで張力のない頭を持ち上げ、投げるように、後頭部を床に打ち付けた。鉄球を投げつけたような硬い音が何度も鳴った。


大理石の床にはあっという間に鮮血が広がった。A子は必死になって嗚咽を我慢した。上半身が小刻みに揺れ、いまにも窒息しそうだった。

男は皮の手袋を急いで脱ぐと


「落ち着いて。君の番だ」


A子は震える両手で、Mのシャツを握りしめ、皺をつけ、ついにはボタンが飛び散るまでゆすった。


「これでいい。わかってるね」

「…はい…、わ、わかってます」


A子はそういってぶるぶると震えながら首を縦にふった。そして手を胸にあて、もう一度確かめるように深く息を吸った。

「大丈夫です。もう、行ってください…行ってください……私を、私を許してください」


男は目を閉じ、思い出したように、ゆっくりと唾をのんだ。

彼が娘の名を呼ぶ声が微かに聞こえた。そしてMのそばに跪き、手を合わせ一礼した。

Mはか細く呼吸をとどめ、数秒置きにうなっていた。男は、その様子を確かめると、立てかけてあったバットを袋にいれ、出ていった。

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