第17話

そこはとあるホテルの一室だった。


「お給料、全部、つかっちゃった」


Mは黙って、革張りのソファーに腰掛け、ジャケットの内ポケットから煙草を取り出した。


「センセイって、たばこ吸うんだよねぇ。お酒のむと吸いたくなるんでしょ、ワタシにもちょうだい」


A子はMの手から受け取った、銅色の紙煙草を口にくわえてMが添えた火に顔を近づけ、一息吹いた。


「ゴフォ、、あーあ、もういやになる」


Mは窓の奥に広がる何週か前と同じ夜景に目を向けて、煙の行先をぼんやり眺めた。


(落ち着け!)


手を繰り寄せて膝の上で愛撫し…いや、懐柔しても無駄だろう。

はっきりさせた方がいい。目的はなんだ。

俺は秘密を覗いたお前を許すわけにはいかない。


「サプライズ、しよっか。センセイ、プレゼントだよ、ワタシからの贈り物…」


A子はブラウスのボタンに手をかけ、ほんのり汗ばんだ胸のうちをゆっくり開放していった。


「どういうつもりだ」

「だって、予定通り…いつもこうやって女の人を連れて」


そう。

こうやって何人もの女をスィートルームに連れ込み、思うがままに蹂躙してきた。

Mは、「道」のように、バカな女を哀れみ、蔑み、そして身体をもてあそんで捨て去った。


「センセイが人のこころを読むように、ワタシはセンセイのこころがヨ、メ、ル、ノ」


A子の息づかいがMの頬にほんのり当たった時だった。

奥でかすかに物音がした。バスルームだろうか。ドアは閉じて採光窓は暗いままだった。Mは一瞬、振り返ったが、近づくA子に押されて視界を阻まれた。


「センセイ…」


A子はそういって、唇を近づけてきた。


「いい加減にしないか!!」

MはA子の肩を激しくゆすった。


A子のぼんやりした顔は続いた。そして逆なでするように、ニヤついた口もとを大きくして酒の臭いを散らした。


「おい、キミ!!」


そして次の瞬間、Mの頭部めがけて残酷で鈍い音が鳴った。

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