第12話

拝啓S様


事件以来、私は戸惑っています。信頼が崩れたことに混乱しています。

校長、かの被害者に対する感情、あれは被害妄想だと理解すべきでした。

あなたのうちにある、破壊、攻撃感情を察知すべきでした。

異常人格という安易な診断名は使いたくありません。

あなたの表面を打ち破り、もっと早く深い怨嗟に気づくべきでした。

Sさん、あなたは今、満足しているに違いない。

学校の名誉を落とし、わたしとの信頼を捨て去ったことを。

わたしには時間が必要です。平和を取り戻すのに長い、長い時間が必要です。

さようなら



20××年〇月×日

理想の教師像?

そんなものが存在するぅ?

品行方正を売りにして、子供の将来をあれこれいうのが教師の役目だ。

あいつの目が嫌いだった。子供を生きがいにするあいつの目を憎んだ。

あいつは死ぬ間際に人間の本性に気づいたはずだ。

崖に立った人間の背中を押して殺すのは簡単だ。俺はそうやって何人も殺してきた。

研修医の頃に発見した、あの薬の効用を俺は論文にしなかった。常用量を10倍にすれば攻撃性が高まることを知って、ある患者の食事に混ぜて実験したことがある。そいつは突然暴れだし、看護師の眼鏡を瞬時につかんで目を突き刺した。取り押さえる人だかりの中、床に散乱した血液を見ながら、俺は焦って駆け付けた振りをしながら満足していた。

何倍に調合するのが最も適切か、多くの患者を実験台にしてようやく適量を発見した。

心理療法で回復させ、薬物で一度に奈落の底へ落とす。それがいつもの方法だ。

クライアントのトレースは心理療法家にとって大事な作業だ。俺は日誌を読み返す度、動悸を抑えることができない。麻薬のような興奮が体中にいきわたり、汗が止まらない。

この興奮がなければ俺は生きることができない。

世界なぞつぶれろ。



Mはシャットダウンキーを叩き、画面を閉じた。

興奮を鎮めるように天井を見上げ、一息つくと、引き出しから茶色の小瓶を取り出した。キャップを開け、突っ込むように口に含み、アルコールの刺激が中に広がると、大きくゲップした。そして2段目の引き出しから錠剤のヒートを取り出し、ボタンを押して一つ、二つと数え、TZの1の刻印の入った粒を2つ飲む。

Mはようやく安心しきったように脱力した。

善人の顔をかぶった悪魔がようやく満足した時だった。

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