第7話
拝啓
踏切には……形見として……
-------------葬式では多大なるご配慮を頂き、ありがとうございました。遺書もなく突然のことで、私ども家族はいまだに戸惑い、受け入れきれずにおります。T美はすばらしい職場に勤めることができたと申しておりました-------
---------手短ではございますが、ご挨拶に代えさせていただきます。
なにとぞご無礼をお許しください。
長所を羅列したかと思うと、幼い時の思い出や、性格の欠点を入れた、その長ったらしい、言い訳だらけの手紙の封書には、父親の自筆の署名がしてあった。
「警察官僚だとは聞いていたが」
T美の働きぶりが父親譲りなのかと想像し、それを破壊しきったことを認識して、満足したように皮張りの椅子に潜った。
家族の悲しみがこの悪魔の滋養物だった。悲しみに打ちひしがれればなおのこと、快楽を得ることが可能だった。親の愛というまがい物を連想するたびに、木っ端みじんに破壊してやろうと決め込んでいた。
「先生、よろしいでしょうか」
ノックがした。
姿をみせたのはA子だった。
心地よいうたた寝を邪魔され、Mは眉をひそめた。
「わたし…T美さんが、まさか」
Mは扉を閉めた。
MはA子の肩を両手でつかみ、
(おまえは良い仕事をしたね)
とゆったりと揺らせた。
「君は僕の意向を伝えただけだよ。損な役回りをさせて、悪かった」
「先生…」
先生。
A子の口癖だ。呼びかけだったり、ため息だったり、謝罪だったり。今のはなんだろう。後悔か。
「しばらく休みたまえ。命の洗濯だよ。旅に出たらいい。法人の経費で落としてかまわないから」
A子はヒクヒクと肩を落として、涙をたれた。
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