第12話 決着

睨み合うオリベイラとフランソワ。


「さあて、そろそろ死ぬかい? いや、先にそこの貧乳童顔を殺してやろうか。それから庭師さんを殺してやろうかねぇ。あんた、バカな男だよ。」


「バカはお前だ。さっさと逃げていればまだ助かったかも知れないだろうに……最後に聞いておこう。なぜハインツなどを籠絡した?」


「あー、別に王族なら誰でもよかったのさ。ただあいつ程度の頭だと垂らし込むには楽だったからね。アンタも庭師やってたんだ、分かるだろう? このクソったれの世の中がさ。」


「分からんな。余にはサンドラがいる。それに比べたら一天万乗の身分など欲しくもない。」


「きれいごと言うんじゃないよ! アタシがハインツを骨抜きにしなけりゃあアンタは一生庭師のままでカマトト貧乳が幸せになるのを指を咥えて見てるだけ! いや、見ることすら叶わなかったんだろうさ!」


「サンドラ、お嬢様が幸せになるのであれば僕は何の文句もなかった。それが壊れた今、余がサンドラを幸せにする他あるまい! いい加減そのドブの匂いのする口を閉じよ! 売女め!」


「ふん、なら死にな。孤児院に拾われたアタシが死ぬ思いをして手に入れたこの魔力でね!」


獄焦炎インフェルノフレイム


石造りの床や壁が黒く焦げるほどの炎。それをオリベイラは。


『宗家無尽流 秘剣 斬魔の太刀』


真っ二つに斬ってしまった。


「なっ、アタシの魔法が……」


「見えるなら斬れる。それだけのことだ。さて、そろそろ時間だ。総員退避せよ!」


オリベイラの号令に従い騎士達はお互い肩を貸しながら王の間から出て行く。オリベイラとフランソワは対峙したまま動かない。サンドラは騎士によって運び出されている。


「何をしようってんだい? まさかあれしきのことで勝てるつもりかい? 見えない魔法なんていくらでもあるんだからねぇ。」


「分かっている。余ではお前には勝てん。魔法の撃ち合いでは相手にもなるまい。だから……勝てる奴を呼んだのだ!」


突如、広間の天井が崩落した。オリベイラは素早く身を隠し、フランソワは魔法で防御をしている。崩落し、穴の空いた天井から降りてきたのは弟、オルランドだった。


「世話の焼ける兄上だ。楽をしたかったんだがな。」


「すまんな。予想外の魔法使いがいた。凄腕だ。騎士も百人近く殺されてしまったのだ。」


「はっ! 真打ち登場かい。二人ならアタシに勝てるつもりかい? どこも王族なんてヌルい生き方してるくせに!」


「黙れ婢女はしため。お前ごとき下層民が対等な口をきくでない。大人しく地べたを這いつくばっていれば良いものを……くらえ。」


大豪炎ゲヘナフレイム


「くっ、『水壁アクアミュール


いきなりオルランドとフランソワの魔法合戦が始まってしまった。オリベイラは慌てて物陰に姿を隠す……




室内が地獄絵図と化しても、一進一退の攻防は続いていた。


「ちっ、帝国の坊ちゃんもやるもんだね。アタシを妻にするなら勘弁してやるよ?」


「願い下げだ。余には愛する婚約者がいる。貴様ごとき醜女しこめでは比較にならぬほど美しいアレクサンドラがな。」


「ふぅん、なら、やっぱ死んでもらおうか。使いたくなかったけど、この城もうダメっぽいしねぇ。」


天地爆シェイソルイクスプロジオ……』


フランソワは最後まで呪文を唱えることなく、後ろからオリベイラに首を切断された。大きな魔法であるため集中しすぎていたのだろう。おそらく間一髪だったはずだ。


「ふう……助かった。さすが兄上だな。ヤバかったぞ。」


「恐ろしい魔法使いだったな。市井にもこのような者がいるとは。この経験をお前の治世に役立ててくれ。」


「ああ、任せてくれ。すまないが疲れた。先に帰らせてもらうぜ。兄上、ここは頼むな。」


「ああ、面倒をかけたな。父上によろしく言っておいてくれ。」


同じ顔をした二人。一人は色黒で一人は色白。一人は節くれ立った指を持ち、一人は火傷だらけの指をしていた。そんな二人がどちらからともなく握手を交わす。壊れた天井から光が差し、二人を照らしていた。

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