第11話 勃発
城内。王の間。
そこにはロープで縛られた数人の王族がいた。第三王子ハインツの姿も見える。
「連れて行け。」
言葉少なに命令を下すオリベイラ。
「貴様庭師風情が! 栄光ある我が王宮に土足で踏み入るとは何事か!」
無言を貫く王族達の中にあって、ハインツだけが無駄に意気軒昂だった。
「フランソワはどうした? あの女狐は。」
「うるさい! フランソワは素晴らしい女性だ! ただ数日前から姿が見えないだけだ!」
「そうか。お前もあのような女に関わったばかりに国を滅ぼすとは。哀れな奴だ。お前達にはまだ使い道がある。とうぶん生きていられるだろう。」
「ふざけるな! 誰が貴様などに屈するものか! 今に見ていろ! きっとこの国の貴族達が立ち上がってお前達を追い出すからな!」
「自力ではできないのか? 余は自力でサンドラを助け出し、ムリーマ山脈を越えた。お前は自力で王国を奪還できないのか?」
それとこれは話が違う。しかしハインツには分からない。
「できる! いつかきっと私の手で王国を取り戻してみせる!」
さすがに大言が過ぎたのか帝国の騎士達はプッと吹き出した。
そこに目を向けるハインツ。周りを見たことでようやく少し落ち着いたのだろうか。オリベイラの横にサンドラがいることに、ようやく気付いた。
「サンドラ! そこで何をしている! 帰ってこい! そやつは国を滅ぼす大罪人だ! 帰ってこい! 私の元へ!」
「帰ってこいとは異な事を言いますね。私とあなたは他人。何の関わりもありません。」
「ふざけるな! 国が滅びようとしているのだ! そんなことを言っている場合ではない!」
ハインツにはもはや正常に判断する頭も残っていないようだ。
「そうか! その庭師だな! そいつがお前を騙しているんだな! 待ってろ! 今助けるからな!」
ロープに縛られて身動きが取れない状態でも口は動く。
「ロープを解いてやれ。」
オリベイラが命令を下す。やや逡巡した騎士だったが、その通りに動いた。
「ハインツよ。あの時の続きだ。お前も王子なら剣で語ってみせよ。戯れ言を聞くのはそれからだ。」
側にいた騎士から剣を奪いとり、 ハインツの前に置く。酔狂が過ぎるのではないだろうか。
「ひっ、ひひひ、剣さえ、あれば、お前ごとき、庭師なんか、ひひ、死ねぇーー!」
意外なことに剣を手にしたハインツは真っ直ぐオリベイラに襲いかかった。わずかに動いて躱すオリベイラ。頬がわずかに切れている。
「ひ、ひひ、今のは手加減したんだ、次は、切る切るききるきる……」
再び腕を振り上げオリベイラを襲うハインツ。しかし……
「終わりだ。」
抜く手も見せないオリベイラの剣術によって首から血飛沫が舞う。力なく倒れるハインツ。断末魔の声をあげることもなかった。
「フランソワはいずこか!?」
囚われの王族に聞くも誰も知らないと言う。
「まあよい。魔法尋問で洗いざらい聞き出しておけ。」
「はっ!」
そして連行される王族達。使い道とは……
「オリー、傷が……」
「ああ、あんな奴でもかつて貴女が愛した男です。せめてもの餞に傷を付けさせてやったんです。一矢報いた証として……」
「バカ、心配したんだから!」
「さあ、残るはフランソワか……」
その時、オリベイラの元へ伝令が届いた。
「申し上げます! フランソワと思しき女を発見しました! この城の隠し部屋にて潜伏していた模様です!」
「よくやった。連れて参れ。」
「そ、それが、その……」
「どうした? 抵抗されて殺してしまったか?」
「いえ、逆です。我が軍の騎士がすでに二十人も殺されてしまいました!」
「バカな!」
オリベイラがそう言うのも無理はない。帝国騎士はオリベイラほどではないが屈強な男達だ。王国騎士なら三人までは一人で相手ができるだろう。それがか弱き女子などに……
「余が行く。どうせあの女はこの手で殺すと決めていたのだ。サンドラを守っておれ。」
「オリー! 嫌な予感がするわ……気をつけて。私はもう役に立てないから……」
サンドラは先ほど飲んだ薬の副作用でこの先三週間程度は魔法が使えない。無力なのだ。
「ふん、庭師が帝国の長男とはね? そんなの見抜けるはずないわね。」
「女狐! 貴様!」
突如フランソワが現れた。帝国騎士がひしめく城にあって、どうやってここまで……
「ねえ庭師さん? この城をアタシにくれるんなら命は助けてあげるけど、どう?」
「何を言っている? 貴様こそそれで命乞いしているつもりか?」
「アタシがどうやってここに来たと思ってんのさ? 帝国騎士なんて脆いものだねぇ?」
「ま、まさか!」
「オリベイラ様! 例の隠し部屋からここに至るまで! 全ての騎士が殺されております!」
「分かったかい? 所詮男なんてロクに魔法も使えない弱虫なのさ?」
「弱虫かどうか試してみるがいい!」
オリベイラは激昂している。サンドラは邪魔にならないよう隅に移動済みだ。
「まあ待ちなよ。庭師さん、あんたは別だ。どうせしょぼい魔法しか使えないんだろ? その割に魔力は高い。さすがに帝国の支配者一族だね。あんただけとは言わない。ここにいる騎士の命を助けてやってもいい。だからアタシを妻にしないかい? あんな貧乳童顔のどこがいいのさ? サービスするよ?」
「もはや語るに及ばぬ! 死ねい奸婦めが!」
怒涛の勢いで斬りかかるオリベイラ。
『
フランソワの魔法、サンドラが山中で使ったものと同じだ。しかし威力は……
「ぐはぅっ!」
オリベイラは壁まで吹き飛ばされた。かなりの威力だろう。
『
立ち上がろうとするオリベイラに再び同じ魔法が……当たらなかった。サンドラが身を呈して庇ったからだ。しかしサンドラは……
「オリー……役に立てなくてごめんなさい……」
気を失ってしまった。骨だって数ヶ所は折れただろう。
「盾構え!」
一人で勝てないなら全員でだ。残る騎士でフランソワを囲む。初めて指揮をするとは思えない用兵ぶりだ。
「何人いても無駄さ。」
『
騎士の頭部に水の塊が張り付いている。恐るべき凶悪な魔法である。
「突撃!」
騎士が窒息するまで待つわけにはいかない。オリベイラは自分を含め全員での突撃を敢行した。しかし……
『
空中へと逃れるフランソワ。しかも宙に浮いたまま……
『
風の刃まで使って見せた。どれほどの腕だと言うのか。この場に立っている騎士は残り十人もいない。オリベイラとて軽くない傷を負っており、サンドラは倒れ伏している。
オリベイラは覚悟を決めて懐から何かを取り出し、床に落として踏み潰した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます