8「死にたい人の扱い方なんて分からない」



<白瀬梨乃の場合>


 私には死にたい人の扱い方なんて分からない。


 生まれてこの方、死のうなんて思ったことすらなかったし、むしろそういう人たちを馬鹿にしていた節がある。


 だって、そうじゃない。


 自ら命を落そうとする生物は私が知っている中では、人間しかいない。だって、その行為は愚かではないか。愚か、愚者、最弱の考え方だと思う。


 病気とか、戦場に行ってPTSDになったとか、借金を持ってしまった、そう言った理由なら分かるけれど、何もない単なる人間関係のもつれで死ぬ理由がよく分からない。


 まして、学校という名の閉鎖空間でいじめられただけで死ぬとか愚か極まれりも限度がある。


 無論、私もこの顔だから昔からよくいじめられたことはあったが口喧嘩でも普通に暴力でも負けなかった。むしろ、ぶん殴ってやろうとさえ思っていた。


 そんな自殺を―—憧れの先輩が考えていると思った時は凄くショックだった。


 ショック、いや、ショックではないのかもしれない。良く分からない感覚だ。こう、どこか夢の様で、どこか不思議な――ふわふわな感じ。とにかく、あまり言葉では言い表せないような感じだった。


 そんな私はいつの日か彼にこう聞いていた。


「なんで、自殺なんてしようと思ったんですか?」と、ストレートに直接聞いてみることにしたのだ。いや、何もやましいことなんてないし、勿論、自殺志願者に対してこういう質問はナンセンスでとてもデリケートなことなのは分かっている。


 でも、私は知りたかった。


 ——しかし、答えはもはや答えになっていなかった。


「——俺が死にたいから死ぬんだ。それだけだ」


 嘲笑していいのか、苦笑していいのか。

 そんな疑問と一緒に変な笑みが込み上げてきた。


「なんですか、それ?」


「ははっ、良いだろこの台詞。世界を征服した魔王みたいで、気に入っている」


「またラノベみたいなことを……中二病を卒業してないんですか、その年で」


「卒業はしているが……死のうとしているんだし、最後はカッコつけたいじゃん」


「……変な理屈ですね」


「ははっ、そうかもな。健常者にはそう思うのかもしれない」


「先輩も健常者です」


「俺は精神疾患持ち」


「自殺したいと思っている所がですか?」


「多分な」


「まったく……ほら吹き先輩」


「おい、俺を嘘つき呼ばわりするんじゃねえ」


「どの口が言うんですかね」


 まったく、ショックを通り越して呆れだ。

 好きな人がこんな堕落している人間だとは思ってもいなかった。先輩の要る大学に行きたくて本来行けたはずのMARCH群の大学を蹴ったのが馬鹿馬鹿しい。


 話して考えて良く分かったけど、やっぱり私は——面倒な男を好きになってしまったのかもしれない。







<柊誠の場合>


「うぅ、さむっ」


 大学の大広間で講義を受けていると突然、寒気がした。


「どうしたんだ、誠?」


「え、あぁ……なんか寒気が」


「誰かに噂でも話されたんじゃないか?」


「ははっ、こんな俺の噂話かっ。モテ期でも来たのかなぁ……」


「……お前を好きな女子とか絶対ブスだろ」


「貴様ぁ……俺を好きな女子を侮辱したなぁ⁉」


「ははっ、事実乙」


 言い合う俺と陰キャラ仲間の友達。

 いつの間にか熱中していると——バタンと大きな音がする。


「そこの二人、五月蠅くするなら出ていきな」



「「すいません……」」


 

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