7「添い寝くらいならしてあげてもいいですよ?」


「せんぱぁ~~い、こっち来ないんですか?」


「なに、誘ってるの?」


「……そうじゃないですけど?」


「なんだよ、なら行かねぇよ……」


 その日の夜、シャワーを浴び終えた俺とこの地味にガードが堅い後輩天使こと白瀬は同じベットで寝ることになった。


 いやはや、これは世界七大ミステリーとか学校の七つの怪談的な何かに入りそうなくらいの話でもあるが、このあまり大きくはない部屋に不自然に置かれたツインベッド。


 口では誘っていないと言っていたが、確実にこれ。想定しているだろ。


 もしかしてだけど、もしかしてだけど。


 もしかしたら、白瀬は誰かとエッチしたくて、誰かの事が好きで処女卒業をしたくて、適当に男を引っかけたくて——今にでも死にそうな俺という男を見つけて、口ではダメと安い女を演出しないようにして——実は俺の事を誘っている。


 ははっ、どうだ。俺の妄想。この歌、どぶろっくにでも歌ってほしいですわ。


「うわっ、性欲駄々漏れ……」


「健全なる男子大学生だからな」


「健全なら、後輩の女子には手は出しませんけど?」


「いやぁ……周りの大学生見てろ、寝取り寝取られ振り振られ——なんてざらだろ」


「生憎と私はそんな戦場に身をほっぽり出していませんし、そこまでの知能指数の友達は持っていません」


「ははっ、おこちゃまだな。工学部にそういう輩はいないけど、他の学部は結構いるぞ?」


「私には他学部の友達がいないと?」


「おこちゃまだからそうだろ?」


「ええ、いませんとも。でもいいんです、私には最高に可愛い友達がいるので、事足りてます」


「井の中の蛙、大海を知らず―—だな」


「たった20歳で死のうとしている先輩になんて言われたくありませんねぇ」


「っ……別に、世の中は知ってるし」


「知らないくせに、どうせ選挙も行ったことないんでしょう? 先輩」


 ぐさり。

 そんな音がなった気がした。

 確かに、選挙に行ったこともないし、俺はあまり世間の事は知らない。


 だが、こんな意味の分からん後輩にこうも言われると流石にムカついた。


「ああ、そうかよ……」


 寝返りをきめ、俺は彼女と反対側を向く。

 

「怒りました?」


「別に……」


「怒ってるじゃん、絶対」


「怒ってないって」


 強めに否定すると、背中がゾわりと悪寒が走った。


「っ」


「怒ってますよね、先輩っ……もう、怒りん坊ですねぇ」


 突如、耳元で囁きだす白瀬。

 その豊満な胸が背中に当たり、心なしか脈打つ音がとくんとくんと聞こえている。温かく、柔らかい……二つの塊。まさに男のロマンだ。


 しかし、俺はそんなもので言い包められるちっさい男ではない。


「怒ってないし、とにかくくっつくのはやめろ……まじで触るぞ」


「じゃあやめます」


「聞き訳が言いな、随分と」


「先輩におっぱい触られるくらいなら死にます」


「じゃあ、今触ってやるから一緒に死なないか?」


「なんですか、その悪魔みたいな誘い文句は。上弦の参もびっくりですよ」


「ちぇ、良い誘い方だと思ったんだけどなぁ」


「しょうもない誘いにハマる女なんてこと知れてますよぉ……」


「んぐっ、で、でもぉ⁉ 俺は——生憎と貴様の様な処女ビッチには興味はないからな‼‼」


「私はビッチじゃないです‼‼ 処女ですけど……」


 ボソッと呟いたこの黒髪天使。

 散々触られたくない―—とか言ってるくせに、見えてるんだけどな、こいつ。


 一瞬だけ触ろうか―—と魔が差したが、頭を振って俺はすぐに掛け布団を被った。







「添い寝、してあげようと思っただけなのに」


 気のせいかどうかは分からなかったが、俺の後ろ側で寝る後輩は悲しそうな声でそう呟いた。


「……」


 


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