1「は? やらせてあげるわけないじゃん」
「……はい、シたいんでしょ?」
「……誰が、知らない女子の家で、ゲームをしたい……なんて言ったんだよ?」
「え? ゲーム、したいんじゃないの?」
「俺はまず、死にたいんだが? それに……エッチがしたいんだが!?」
むすっと顔を顰めた彼女。
その後ろでやったことないゲームの無機質なBGMが流れていた。
なんで、俺。
さっき会ったばっかりの女子の家にいるんだよ。
ていうか、セックスするんじゃなかったのかよ。
こいつ、コントローラー握ってるし……俺の竿じゃなくて。
俺も変な期待をしてホイホイとやってきたから何とも言えないけど、こいつの曲解よりかはマシだ。
「はぁ……まったく、これだから若い男はね~~」
「……何が?」
「なーんで、すぐに死にたがるのかってねぇ~~」
「それはまぁ、それなりの理由があるからだよ」
無機質なゲーム画面。
陽気なBGMとキャラクターの明るい声が木霊する。俺も昔はこうやってゲームもしていただろうか。最近は何の気も起きなかったからぼーっと天井だけを見ることしかできていなかった。
そんな上の空な俺の顔を軽く一瞥すると、彼女はプスっと吹き出した。
「っはは!! もう、何その顔?」
「人の顔を見て笑うなって親に教わらなかったか?」
「え、教わってないけど? むしろ、そういう時こそ笑えって言われたわっ……っぷぷ、ははっっ」
「……ほんとに親かよ」
ついこぼれた本音。
言ってしまったと肩に力が入ったが彼女は気にせず笑っている。どうやら片親とかそういう細かい事情もないのだろう。
いや、しかし。
こいつの親は鬼畜なのか。会ってものの小一時間くらいだが、なんとなくその鬼畜親の血が流れていることだけは分かる。このおっきな態度、そしてまるで自分が主人公かのように連れまわすところとか、失礼極まりない奴だ。
まぁ、俺も親の悪口を言っている時点で何も言えないか。
「んで、なんだ? 俺はゲームをするためだけにここに来たのか?」
「うん、私とシたいんじゃなかったの?」
「だから俺は死にたくて……って、はぁ……もういいよ」
「へへぇん、もう出しちゃったかぁ……我慢できないなんて、早漏だねぇ」
「……まるで行為をしているように言うんじゃねえよ」
「え、私たち……
「……はぁ、分かったよ、もういいよ」
「うわぁ、二発目ぇ~~」
「もう、まじでやめろ‼‼」
ぐへ~~となまけた顔で言いやがるこのクソビッチめ。超絶美女にらしからぬ言動だ。清楚で黒髪ロング、完璧な容姿にそぐわないこと言いやがって。
そんな彼女の口を塞ぎ、俺は泣く泣く普通にゲームを始めた。
「おい、ここでそのアイテム使うんじゃねえ‼‼」
「へっへへ~~、雑魚ざぁこ‼‼」
「っち……くそぅ……今度は‼‼」
「知ってます? こういうのって、他人を蹴落としてこそ楽しくなるんですよ?」
「相変わらず鬼畜だな……」
「親からの受け売りです! 他人の不幸は美味しいですからね~~」
「……そうか、お前。もしかして、俺が死ぬほどつらいって言うのを見てるから楽しくて笑っているんだな?」
「あ……もしかして、バレました?」
「ほんと鬼畜だな」
まったくだ、この似非ビッチ鬼畜美女め。
スキルマシマシだな、これは。
「まぁ、いいや……とにかく一勝するまでやるぞ‼‼」
「ははぁ~~、いいですよぉ~~いくらでも付き合いますよぉ~~‼‼」
ホーホケキョ。
ホーホケキョ。
鶯の鳴き声がする。
「っ——ぅ、うぅ……」
眩しい。
陽の光か……。
ゆっくりと日差しが瞼から差し込めてくる、目を見開くと……そこには美女がいた。
「っぁ……ぁん……んん…………ぁぁ」
「え?」
目の前にいたのは絶世の美女だった。
水玉模様のパジャマを着て、目の前、横になっている俺のすぐ、数センチ先に寝息を立てている。
ぷっくりとした桃色の唇。
色白の肌。
今にも壊れてしまいそうなほどに小さく細い腕と脚がパジャマの袖の先から俺に顔を見せている。
加えて、はだけたパジャマの胸元から大きく柔らかそうな二つの塊が重要なところを隠して見えていた。
「おぉ……でけぇ」
って、何言っているんだ。
俺は今、かなりヤバい状況にいるんじゃないのか?
密室で、ほぼ裸な女の子と二人っきり。
それに、彼女の歳も知らない……これがもしも18歳以下でもあれば、20歳大学1年生の俺は性犯罪者になる。
それは、まずい。何もない、死にたい俺だが一線を越えるつもりはさらさらない。
一旦、深呼吸だ。
「すぅ……はぁ……、すぅ……はぁ……っ」
よし、これで大丈夫。
「——じゃなかったな、だっているもん。そこに可愛い女の子が」
どうやら、俺は死ぬ前に……刑務所に行くことになるのかもな。
今年のカクコンに向けての一作目です。
よろしくお願いします。
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