おもちゃの国 城門 其ノ四


 電気で動いているとは思えないけれど、何かエレクトロンの様なものを動力としているのかもしれない。 兎に角これを利用しない手は無い。


 『水に対して防御がなされて無いかも。展示用の消防車があったわね? あれに放水させられないか問い合わせてくれない?』


 防御システムに要請をかける。


 『ほ、放水ですか……』


 『自分も水気に弱いからってビビってんじゃないわよ! 噴水の水を汲み上げて敵に浴びせたいのよ。それかバケツリレーでもする?』


 『リレーしようにもバケツの数が足りません。プラスチックで製造は時間を要するので、ブリキ兵を解体して増産しますか?』


 『しないわっ! バケツリレーは蛇足だしっ! ってか、ボケるところを間違ってるしぃ。 要らぬこと真面目に考察しないで、早く問い合わせて頂戴。』


 私達の念話を耳にしたブリキ製のおもちゃ達が震えあがってる。 私もツッコミ方を間違えた。 日常的に水を使用しないこの世界に、バケツは数ない、とシステムが言っていたのは真の話。

 住人は食べることをしないから調理しないし食物連鎖自体がない。 清浄も清掃も埃を払うだけか乾拭き方式。 花も動物も生存に水分を必要としないし、枯れることも腐ることもないので世話など要らない。

 何かが造り上げられる時に必要なのは原材料と識しき。 余分なモノは出さないからゴミは出ないし、焼却施設もない。 なので火を出す恐れは皆無だから水を利用する防火施設が存在しない。 もしもに備えて有るのは、おもちゃに優しい物質を使った防火方法だ。

 バケツは無用の長物でお飾りに過ぎない、ってこと。


 『解答が来ました。OKなので消防車を急行させたそうです。』


 『了解。私は防水仕様だから構わず放水しちゃって。岩壁に届くくらいの水圧でね。』


 水浴びを待つ間に侵入者を手当たり次第に蹴散らかす。 断末魔か呼び掛けあっているのか、耳障りな音域のノイズを発している。


 コイツらは何処から来たんだろう――






 『準備完了。放水開始します。』


 直後に一斉放水。 あちこちでバチバチと火花が散る音がする。 煙と焦げるニオイが辺りに立ち込め、忽ち動くものの数が減ってゆき、遂には私のみと為る。

 岩壁の下を覗く。

 その遥か下、または岩肌に張り付いた侭で物体化未熟の侵入者予備軍が動かなくなっている。 その光景たるや、おぞましく醜悪。 落ちているのは始末し易いが、問題は張り付いているもにだな。 岩ごと削り取るか、いっその事埋め込んでしまうかだ。

 排出用ダクトに白いもの黒いもの、様々なものが吸い込まれているのも見えた。




「もう来るなよ。」


 何となく独り言ちて、報告とひと息つく為に城内へと戻る。


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