人間世界側 表玄関 其ノ四


 おもちゃの国と人間世界は構成する物質(一元論的元質)、モノの有りよう・象りようが違っている。

 凡人の私が感ずるに、通じる点はある様な無いような? しかしそこは王が日々研究し今もって検証されているので、何処がどの様に、と言及するのは避けたいと思う。


 さて表だっての違いと云うのは。

 片や、人間、動植物として生き、山や川や道具など物は雨土として有り続ける。 一方で私達はおもちゃの国の住人、おみちゃの国のモノとして存在している。 総じればこう云うことなのだ、と教えられている。

 そして事実上、おのれの世界から離れ他方の世界に近付くにつれ、体は希薄化して、かたちを保つことが出来なくなる。


 あちらの世界とこちらの世界。 相容れぬ他世界で、かたちが保てなくなった果てにどうなるか?

 どちらの場合も、たましいまたはれいまたはしきというものはる、又は残るとも言えようが、実質面でかたちとしてざいしていない。 ここが難解なところで、実際に体験してみないと飲み込むのは困難だろうな、と私は思う。


 くうとしてあり得るが、無色、若しくはむだ乃至ないしに等しいものと為り果て、もとの世界に還かえれずに彷徨さまよ揺蕩たゆたう。 あるけれどない、無いが有る。

 世界が違えばこの様に至り、世界が違うとは、これを意味する。


 が、世界を跨って存在し得る方法がないでも無いし、会得も可能で、御庭番のじいや私などの極一部はそれを行える。

 修練というよりもコツを掴むに近く、概念化や実態化、物体化がそれであり、しきの操り方で、全て王からの享受だ。

 方法を会得しない者は、自らの形而上化と再構成のどちらも出来ない。


 会得できない住人を人間世界に留める場合(例えば表玄関を日中専門に守る者達)、王の権限で実態化させなければならず、戻る場合も王自らが呼び戻す必要がある。 王以外の何者も、自らには行える私達でもこれは出来ない。

 無理して行おうものなら、形骸化させてしまい元に戻せなくなる。


 虚……こころが無いとはなんと哀しいことよ――




 外では中の様子を、息を殺し窺うのか妙に静かだ。

 私が後ろを向き歩き始めた瞬間に押し入って来ることだろう。 音も立てずスッと影のように。

 その数が幾つなのかが問題なのである。


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