人間世界側 表玄関 其ノ三


 全くこのご老体、また誤った言葉遣いをしている。 再三、訂正してあげてるのに未だ理解してない様だ。


「その〝 人 〟ってところ。そうじゃなく、〝 人間 〟でしょ。今の世に嘗てはは一切存在しないのだからね。解りましたか?」


「お前さんの言い分もわかっちゃいるんだがな。王様も仰られるであろうが。人の世もそう捨てたもんじゃない、と……」


「その話は長くなると確定しているので結構です! 話を戻します。確かに生気がなくて気味が悪い感じだったけど、人間じゃないってじゃあ、アレは何なの? 幽霊か化け物?」


 幽霊、化け物など昔話でもなかろうが、人間を『人』と呼ぶという丸っきり時代錯誤なじいを、同様の言葉で揶揄からかってみたのだ。


「体を乗っ取っているが妖の類でもない。発する波動が違ったろ。寧ろ……」


「……何なの。勿体ぶらないでよ。」


「兎にも角にも。人では無い何者かが王を拐かどわかし、人や我らの国だけに留まらぬ世界に何某か悪巧わるだくみせんとしている様だ。」


「それじいの考え過ぎか誇大妄想してない? でも〝 人間では無い 〟〝 王をさらうおうとしている 〟って事はまことしやかね。人間が相手では無いのならこんな物は役には立たない。精神攻撃を有する迷路とて人間対処用だし。」


 折角補強してくれたが役不足の板を、二度コンコンと小突きながら少し先を予知検索してみる。 情報項目が虫食いで上手くいかなった。


「いいや、これは単なる板切れに非ず。念力であろうが重機であろうが。人外のこのわしの魔導をもって弾き返してやるとも、多少はな、ワハハ。さて、わしはこの入口を消して通路も消す。先に報告にあがるから後は頼んだ。」


 声が終るや否やじいの姿は消え失せていた。


「だから〝 人の世に見えて人の世に非ず 〟な〝 人間 〟ですら無い存在なワケよ、相手は。時代がかった民話の中の爺様じっさまのじゃ焼け石に水……と愚痴ってみても詮無せんないか。」



 はぁ、憂鬱――


 自分は通った後エスカレーターを閉じちゃうって?

 あの絶壁を、実態化した体で闘いながらじ登らないと駄目って訳だ。

 しきを使うのは面倒で疲れるというのに。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る