人間世界側 表玄関 其ノ二


 じいと状況の確認をする間も、早く中に入れろ、といった様子で人間達は帰る気配がない。


「どれ、板を打ってしまうよ。どの道、いつかはしないとならんわな、と考えてはいてな。実は此処に準備はしてあったのだよ、ワハハハ……」


 そう云々とじいは多目に声を張り上げた。

 だが、迷惑な二人連れは何処吹く風が如く、全く意に介さない様子。


 仕方ない―――


「院長は遠方に出掛けて不在なので、今夜が本当に無理なのです。どうぞお引き取り下さい。お願いします。」


「おっと危ない!さあさあそこの人。帰った、帰った」


「夜も明けるというのに寒風吹き荒み、更に冷え込んできましたがご覧のとおりのこの有様。今から塞ぐ作業をしますから危ないですよ、お下がりください。」


 と私が言葉で制し、じいは運んで来た板を一枚持ち上げ扉に合わせると、途端に静まる。

 幾らなんでも板っきれ一枚で、こうも防音効果がある訳もなく、夜の音はそのまま聞こえ来るが、人間の声だけがしなくなったのだ。

 やっと理解されたかと、もう片方の扉の未だ風穴となっている所から外の二人を確認すると、口を開けたまま立っている。

 喚いていた先程の状態に ポーズ を押して身体能力を全て一旦停止させたかの様に、だ。

 眉さえ微動だにしないのだが、それが制止画から切り取ったもので無いと知らしめるのは、眼孔だけが鈍い光を帯び動いていると分かるからだ。



 用を足さなくなった二枚の扉に、台風に備えるでも無いのに板を打ち据えた後、神妙な顔つきで向き直ったじいに問うた。


「あれは一体どういう人種なの?あの様な奇妙な人間は見たことがない。」


「どうもあの二人は盗みに入りに来たらしい。」


 小声でじいが告げる。


「泥棒って人種なの?」


「いやいや『泥棒』とは人種では無いぞ。それにあ奴ら。人の類い無い。」


「それは情報?それとも勘なの?御庭番として言っているのよね?」


「おうさ、人に見えてありゃ違う。総毛立たせるあの気配を感じなかったのか?おぉ、桑原桑原。」


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