人間世界側表玄関 其ノ壱


 私の名は、ユーリア。

 現れた当初の体の原素材が、人間世界でユリア系樹脂と呼ばれる物質に似ているのが由縁のこの名。 安易過ぎる由縁だが王が名付けの親なので、一も二もなく気に入っている。

 年齢も誕生日も分からない。 親や先祖はいない。 が種族は戦闘武族。 どうでも良い機能に連動しない設定だが性別は女、らしい。


 人間世界側表玄関おもてげんかんの門番役を任され、夜間は私一人でまかなっている。

 この世に現れた時からずっと毎夜。

 昨今は呼び鈴が鳴らされない限り出番はなく、その間は城兵共と遊んではいるが、年中無休の身である。


 ほんとにもう飽き飽きなのである!



 矢張やはり呼び主は酔っ払った、中年と呼ばれる男女である。

 一見して分かる様になったのは、才能でなく慣れや惰性に近い。


 男は顔が真っ赤で、片方の腕で側に立つこれまた顔の赤い女の肩に巻き付け、もう片方で扉を揺らしていた。


  本当に仕方のない生き物__




「申し訳ございませんが今は診療をやっていないのですよ__エエッ?」


 戸口に近づくにつれ迷惑な客の、あまりにハッキリ見えてい過ぎる姿の理由に、行き当たり私は声が裏返ってしまった。

 両開きになっている扉二枚の硝子が抜け落ちた様に無くなり、大きく開いた四角穴のすぐそこ、玄関灯の真下に、枠のみとなった木戸口を揺らす男ともう一人は居るのだ。


「いったい何故こんな?そちら様方がやったのですか?」


 酔いに任せ、意味の判別出来ない言葉を喋り続ける二人に問うた。



「あちこちヒビがいっていたからな。こうなったんだろう。」


 答えを返したのは、目前の二人でなく、私の右側に登場人物である。

 いつの間にか、夜間ガードマンに姿を変えた庭忍のじいが、横に立っていたのだ。

 いつも思うことだが。


 試すように忍び寄るのはやめて欲しい。

 識に不快な乱れが生じて嫌なのだ。


 『しかし 砕け落ちた破片が一つも見当たら無いわよ  誰かが持ち去ったとでも言うの 』


 『錠は掛かっているかい 』


 『元々が頑強な造りはしてなかったが 壊れていない 掛金の方が緩んで外れ掛けている…… 扉の蝶番ちょうつがいも危ういわ 兎にかくこれを塞がなければ 』


と、じいと私はダイレクト波を送りあった。


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