おもちゃの国の女拳闘志士 ユーリア

ももいろ珊瑚

序幕


 ――今月これで何度目か、全く人間とは面倒臭いものだ



 午後診はとっくに終了し、日がとっぷりと暮れてからお隣のパン屋のシャッターが上げられる早朝まで。 それが私の勤務時間帯だ。

 普段なら呼び鈴を押すのは郵便屋か訪問販売なのだが、 師走のこの時期だからか休日深夜診療を求めて訪れる者がちょくちょく有る。

 しかし、今の時刻に訪れる者が正常な人間である確率は極めて少ない 。

 殆どは食い過ぎか飲み過ぎの所謂いわゆるところ酔っ払いと、しょうがなしにこれを伴ってきた付添人の組み合わせだ。


 どちらかと云えば後者の方が執拗しつこい。

 心配顔の裏で、相方あいかたの介抱を何がなんでも他者に押し付け、晴れて御役御免の無罪放免となりたいから。


 うちは一時的な脳機能のうきのう損壊者そんかいしゃの遺棄場所じゃ無いの。

 そちらさんの持って行先に迷うなら交番を選択して欲しい。


 昔……といっても百年ほども経ってはいない以前は、幼児を背負う母親が多かったのだが、今は公設の診療センターへ行くので皆無と為った。

 が、これまた絶対にあり得ないとも言えないのだ。


 断崖をそろりそろりと下りている場合では無い。 秘密のエスカレーターを走り降りよう。 私と限られた者だけが概念化できるエスカレーターだ。

 それを蜘蛛の如く跳ねおりて、玄関へ続く階段には数分で着いた。


 ここからは人間の姿に変わらなければ。

 寝間着ねまきにストールを羽織る看護婦を脳裏に浮かべ、その様に姿かたちを体表面に投影し、眠さと困惑の表情をつくり私は一段一段降りていく。



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後書き

ジャンルが判別できず、取り敢えず『SF(空想科学)』としました

話数を重ねるうちに変更するかもしれません

又、ストーリー展開から『こっちの方がいいよ』ってご感想があれば、お寄せください


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