第45話 やっぱり移植手術は転生じゃない。

『大丈夫ですよ。ただけですから…。』


 私が気を失ったのは、熱いお湯にずっと浸かりすぎてしまった事によるものらしい。その場に居合わせた方々に抱えられて、私は館内の休憩室に寝かせられました。


『外国人ってやっぱりシャワーがメインだから、長くお湯に浸かる風習が無いのね。』

『ったく…姉さんも母さんも長風呂好きだからな…。』


『あら竜ちゃん、ママは普通のお風呂は長風呂しないわよ?温泉だから…です。』


 看病はママさんが付き添い、竜也と義姉おねえさんは周囲の探索や他の風呂へ行っていたようです。


『パパの心臓…か』


 そう呟きながら、ママさんは休憩室に設置されていたテレビを見ていたそうです。そんな時に不思議な事が起こったと言うのです。


「マ~マさん」

『きゃ…ってシェリー?ちゃん?』


 私がママさんの背後から急に抱きついてきたと言います。でもその目を虚ろで、しっかりと前を見ていない。そんな雰囲気だったそうなのです。


『…たろ…ちゃん?』


 ママさんは咄嗟に、自分の死んだ夫。そう、私の心臓になっている竜也パパさんの名前を言うと、私は少しだけ笑顔になったと言うのです。


「は~い。愛しのたろちゃんですよ~。ママさんお久しぶり。」


 普段はどうしても英語のアクセントが残る日本語を話す私が、しっかりとした日本語で話しかけている。ママさんは直感ですぐそれに気づいたそうです。後ろから抱きつくのは、竜也パパさんがよくやっていた事らしく、ママさんも慣れた手付きで私の手をそっと握り返しました。


『もう…急に居なくなったと思ったら、急に出てくるんだもん。びっくりしちゃうでしょう?』

「ごめん…。ここには今二人きりだし、だったら今しかない…。でしょ?」


『何が今しかない…よ。』

「え~勿論…って、あ~今って俺、女の子なんだ…。はぁ~」

『やめなさい。子供たちもすぐ帰ってくるわよ?』


「…ごめんね。ママさん。」

『…何言ってるのよ。良い子じゃない。シェリーちゃん。』


「ああ…。の俺が保証する。いい女だ。」


 その最中に、義姉おねえさんが様子を見るために戻ってきました。


『え?シェリーちゃん起きたの?ママ。』


 もちろんあの時の私は、になっている事実を知らなかったから、状況が読めなかったようです。


『可憐、あのね…。』


 説明しようとしたママさんに私(?)は。


「あー。可憐か。懐かしいなぁ。」


と言ったそうです。そして…。


「実は目が良く見えて無いんだ。ママの事も匂いでやっと分かったくらいで。ハハハ。残念だなぁ。可憐、良い女に成長してるだろう?なんせ俺とママの子供だからな。」


 そこで二人は本当に見えていないのか確認したところ、目は開いているものの、目の前に何があるかまでは全く見えていない事が分かり、ちょうどその時には竜也も合流して、現状の確認にしばらくの時間を要したのだそう。


『ねぇパパ、それって転生って事だよね!あ、でもパパって異世界転生の方が好きよね。どんな気分なの!?』


 義姉おねえさんは、ソッチの方が気になるようでしたが、私(?)はこう切り返しました。


「あー多分これは転生ではない…かな。俺がこの子の一部になっただけ、が正しい。多分、心臓が移植される前から、彼女の心は壊れかけていたんだ。を諦めてしまっていた彼女に、俺が入った事で、一人の器に二人の魂が混在する形になったんだ。」


『そんな事って…。』


「彼女の父親がな。移植後に変貌した娘の性格が悪魔なのではと、一時期教会に相談した事がある。」


 この話は私ですら家族以外に話していない事です。


「だから俺は、なんとかそれだけは避けたいと願った。多分どちらかの魂が浄化されれば、この体は再び不安定になってしまうだろうからな。俺は自分の思い出せる記憶を全てノートに書き写し、彼女がみんなと会えるきっかけを作った。代わりに俺と言う人格は消えて、元の彼女へ戻る事ができ、除霊騒ぎも収まったのさ」


『やっぱり、転生なんてフィクションなんだなぁちょっと期待しちゃった。』


 私(?)は義姉おねえさんの顔を手で探りながら、頭をゆっくりと撫でました。


「可憐は俺の自慢の娘だし、そんなアニオタにしたのも俺だ。今こうして話していられるのも、実はただの寝言かもしれない。それでも本気でそう言ってくれる可憐は、最高のオタク仲間だ。」


 義姉おねえさんは、そんな言葉を言われて思わず涙が出てしまったそうです。


 私は竜也にお姫様抱っこされながら車まで移動して、帰りの道中は会話が途切れる事は無かったそうです。そして、自宅に到着すると私は姉弟に両肩を借りながら自部屋に戻ると、ベッドに横になってそのまま眠りについたのです。


「そんな、事が。あったですか。」


『あの口調。間違いなく父さんだった。声こそシェリーなんだけど、なんか、シェリーじゃないってなんとなく分かるんだ。』

『不思議よねぇ。アメリカだとエクソシスト?って言うの?ポルターガイストとかそんなイメージだったのに。』


「私…。確かに手術前、あと一年も無いと言われてた。だから、落ち込んでいた。それは間違い無い。手術の時、意識がもう無かった。ホントの話。」


『父さんがシェリーを助け、今までずっと励ましていたんだな。』


 私自身、転生なんて信じていません。今こうして生きていられるのも移植手術があったからこそであり、でも今から何年生きられるかなんて正直分かりません。

 私の体に違う魂が入るなんて嘘見たいなお話、事実を知っているのは神かヨハネかそれとも日本の仏様か、答えなんて今すぐに出る事は無いでしょう。きっと私自身が信じていれば、それが答えなんじゃ無いかなって思うんです。


 だって私、今生きてるんだからっ!


最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。

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自分の息子に恋します! 神原 怜士 @yutaka0000

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