第44話 家族とのスキンシップなのです。

 竜也ママさんの運転で秘境温泉を訪れた私達四人。温泉案内のパンフレットには、室内風呂を含め、複数の露天風呂が表記されていました。

 その最初でいきなり、混浴風呂と言う刺激的な初体験となったのですが、このお風呂では体や髪を洗う場所が無かったため、ご年配お二人に見送られながら、別棟にある内風呂へ移動する事になりました。


「ここも…こん…よく?」


 私は義姉おねえさんに聞きます。


『あ~内風呂は、男女別よ~。あ、混浴が良かった?』

「ち…違い…ます。」


 少しだけ残念と思ったのは違いありませんが、それでもどこへ行っても混浴なのは刺激が強すぎるので、男女別で安心していましたが、もう一つの問題が私の体に発生していました。

 それは片目に入れていたカラーコンタクトに違和感があったのです。


(どうしよう…。久しぶりに目がゴロゴロしちゃう…。)


 ポシェットの中には、片目だけ視力矯正力のある眼鏡は入っていますが、温泉からはもくもくと水蒸気があがり、眼鏡があっという間に曇ってしまうのは容易に想像がつきました。


(眼鏡が曇れば、片目の色違いを誤魔化せられるから良いかな?)


 私は片目ずつ色の違う自身の目が嫌いでした。虹彩異色症Heterochromia irisと呼ばれるこの病気は、私から片目の視力を奪い、私自身のアクティブな気持ちを奪いました。

 けれど竜也は、その目を好きだと言ってくれました。日本ではオッドアイと呼ばれているらしいです。普段はカラーコンタクトを付けているので、周りの目を気にする事は無いのですが、無理をするわけにもいかないので、思い切って外してみる事にしました。


『ええ!?シェリーちゃん、眼鏡かけるの!?』

「イエス。あの、コンタクトなんです。片目。」


『そうなんだ。視力悪いの?』

「イエス。凄い悪いので、矯正しないと、生活難しい。」


『大変だよ…。ってええええ!?』

「??」


 私の顔を横から見ていたので、片目の色違いに気づかなかった義姉おねえさん。その反応から恐らく、私の目に驚いたのだろうとは予想してました。


『シェリーちゃん!なにそれー。目の色変わってない!?本物?すごー。』


「みんな、最初、そう。」


 義姉おねえさんは私の目を興味深そうに見ています。


『ほら、早く入らないと湯冷めするよ?』


 先に風呂場への入り口に立っていたママさんの一言で、私達は一先ず中へ入る事になりました。

 内風呂と呼ばれるこの場所は、中に複数の水道栓が備え付けられていて、複数人が同時に体を洗い流すことができるようで、その奥に大きな湯船が見えました。


(へぇ…大きな風呂場。)


 私達は体や髪を洗い流しながら、出てくる会話はやっぱり私の体についてでした。


『私もコスプレでオッドアイしたことあるけど、本物を見るの初めて~。視力無いのがこっちなの?不思議~』

「…。不思議なのは…日本人です。アメリカでは大人になっても容姿について相手に直接聞くことはありません。もちろん、コンプレックスであったり、差別したりは…あります。」


『ん~日本はアニメ大国だからね!アニメみたいな顔とか体って羨ましいんだ。


 本当に不思議です。私も日本に来てから何本もの日本アニメをパパさんコレクションで観てきましたが、どれを観ても興味深いものばかり。容姿が変化したり、ずっと強いわけでもなく一度はピンチを迎えたり、中には別世界に転生するような話もあって、作者がとても想像力が豊かであることは容易に分かります。


「羨ましい…。ですか…。」


 そう思ったことなんて一度もありません。今の私がこの目になって良かったと思えるようになれたのは、日本に来てからなのです。


(好きな人に好きって言われたら、嫌いになれないじゃない…。)


『あ~可憐はパパに似て、アニメすっごい大好きだったねぇ』


 ママさんも娘の事を理解しているようで、私の体を舐め回すように観察する娘を見ても、特に止める様子も無く眺めていました。


 湯船に入ってからも、義姉おねえさんの視線はずっと私を向いていました。私はその視線を避けるように肩までしっかりとお湯に浸かり、眼鏡もすっかり曇って真っ白になっていました。


(う~。どうしよう。恥ずかしくて何を話したらいいんだろう…。)


 竜也は今頃どうしているだろうか。外の露天では年配男性が二人いたけれど、内風呂では一人なのではなかろうか。とか、そんなことばかり想像してしまいます。

 なんだかんだで、湯船に入ってどれくらいが経ったでしょうか。私はさすがに我慢できなくなってきました。


(そろそろ出た方が…)


 そう思って腰を上げた瞬間でした。


(あれ…?)


 急に視界がぐにゃりと捻れたような感覚に陥りました。


『シェリー?大丈夫!?』


 二人の声が微かに聞こえます。


「ダイ…ジョウ…」


ばしゃ~~ん。


 なにかを言いかけて、私の意識が途切れました。そして次に目を覚ました時、私は何故か自室のベッドに横たわっていました。


(いつ…帰ってきたんだろう…。)


 私はゆっくりと体を起こし、周囲にある時刻の分かる物を探します。


(16時半…過ぎ?あれ?温泉は?)


 衣類は温泉に出掛けた当時のままであり、スマホの日時も時間こそ過ぎていますが日付まで変わってはいませんでした。


 部屋を出て階段を降りて、リビングへと向かいました。そこにはママさんも竜也も義姉おねえさんもいました。


『あ、シェリー来たよママ。』

『気分はどう?どこか痛くない?』

『ったく心配かせさせやがって…。』


(…?)


 私は自分身に何が起こったのか全く思い出せませんでした。


「あの…私、何があったんですか?」

『あ~。いつものシェリーで安心した…。』


(…?)


 なんだかみんな、よそよそしい感じがしています。そして、竜也はあの時何が起こったのか話してくれました。

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