第41話 夏休みと言えば、海なのです。その3

 海を満喫している私達、簡易テントで日焼け止めクリームを塗り、準備が整ったので、早速海へ向かって行きました。


「(※英)きゃっ!冷た~い」

『ここの海は太平洋側だから、冷たいんだよね』


 まだ膝下にしか波が届いていないのに、とても冷たく感じる日本で初めての海。


「あはは…竜也、サンディエゴも太平洋pacific oceanですよ。それに、アメリカの海もちょっと冷たい。同じです。ミッション・ビーチと言うビーチあります。私大好きです。泳いだことありませんけど、よく家族で行きました。」


『そうなんだ。俺もアメリカ行けたら、連れて行ってよ。』

「OK竜也。今は難しいけど、是非来てほしいね」


 日本と私の地元(アメリカ)では海の方角が真逆。アメリカの海では夕日がとても綺麗で、家族と一緒に見た夕日は今でも忘れられません。


(きっと竜也も、アメリカの海で夕日を見たら感動すると思う。)


 すると、竜也が私の手をさり気なく繋いできました。


『泳いでみるかい?』

「ええ!?でも…私、泳いだこと…ないです。」


 幼少の頃から心臓が弱かった私は、運動と言える行動を全て避けて来たので、水泳なんてもちろんやったことがありません。しかし、竜也はとても自信有りげに私を更に深いところへと誘います。

 腰の辺りまで深いところへやってくると、流石に体がジワジワと冷えて来るのが分かります。


『シェリー、両手を持ってるから、ゆっくりとでいいから足を上下に動かしてごらん。』


 私は竜也の言う通り、両足をバタバタと動かします。竜也はその動きに合わせてゆっくりと私を引っ張って行きます。しかし、顔が水面近くまで来ると、私は少し怖くなってすぐに立ち上がってしまいました。


「ふぁ…。竜也…、私…。」

『ん。少し、浮けたんじゃない?』


 頭部以外の全身ビショビショになった私を見て、竜也は普段通りの笑顔を見せてくれる。結局そのあと私は、持ってきた大人用の大きな浮き輪を膨らませて、海に浮かぶ形になりました。


「はぁ…、勉強大変、運動大変。覚える事いっぱいね」

『ははは、勉強は兎も角、泳ぎって真剣に覚える人少ないんじゃない?アメリカの学校にもクラブとか無いの?』

「アメリカの学校、日本のように同じクラブ活動をずっと続けること無い。入りたいクラブ、1シーズン終われば変える人いる。」

『そうなのか!?』


 アメリカの高校ではクラブ活動がシーズン化されている。大体1シーズン3ヶ月ほど。その理由は季節に左右されがちなクラブの存在。活動期間が限られているので一年中所属していても無意味だからです。また実力が試されるクラブには1軍や2軍と言ったクラス分けや、試験期間を設けて実力を発揮できなければ入部すらできないこともあります。

 そもそもアメリカのクラブ活動は、日本で言う「文武両道」。勉強ができる人がその余暇で行う活動なので、私がこれまで見てきた日本のクラブ活動でよくある「運動だけできる人」は居ないのです。


『へぇ…マジかよ…。』

「ベースボールやバスケットボールのプレイヤーも、勉強ができる人多いと思います。」


『んー。アメリカと日本で結構違うんだな。』


 二人で砂浜に座り、いつも通りの雑談をしているだけでしたが、そんな時に限って雲の切れ目から太陽が顔を覗かせ、私達を見ています。


(もう…。さっきまで曇ってて気持ちよかったのに、太陽出ちゃって暑くなってきた。)


 日本のこの季節は湿気が多いからか、強い日差しと気温でとても暑い。特に昔から室内にいる事が多かった私には、この暑さが体に堪えます。


『テント、行くか?』

「イエス。」


 砂浜に座って体が砂にまみれていたので、海に入って洗い流してから、私達は簡易テントへ向かいました。


「はぁ…。美味しいー。」


 テント内で飲み物を口にした私。中身は日本人がよく飲むと言う緑茶。ペットボトルから覗かせる緑色のそれは、喉の奥をホロ苦い味と共に潤してくれます。


(日本に来て初めて飲んだ時は、凄く苦くて好きになれなかったけど、何故か飲みたくなって、何度も飲んでいるうちにクセになっちゃったんだよね。)


 少しだけテントの隙間からペットボトルを出して、外の光を緑茶ごしに楽しむ。

 昼食は道中にあるコンビニで購入したお弁当。個人的には手作りのお弁当でも良かったのですが、ママさんは私の体を気遣って、市販品を提案したのです。


「ん〜。からあーげ最高。」


 日本の食べ物は、寿司を代表とする食物しょくもつを生で食べなければならない料理以外なら、食べることを許されています。ただし日本の揚げ物も、その一部は内部が半生で火が通った状態になることを知った時、正直がっかりしたのを覚えています。

 そこで出会ったのが「からあげ」です。鶏肉を使用したこの日本料理は、高カロリーではあるものの、そのまま食べて良し、ソースを絡めても良し、飽きの来ないそのバリエーションにすっかり虜になっていました。


(あんまり食べ過ぎると太っちゃうけれど、お店で買ったお弁当くらいなら丁度良いのよね)


 昼食後は海で再び竜也と大はしゃぎだった私。帰りの車内で疲れて眠ってしまったようで、海の記憶から目覚めると竜也の自宅へと戻って来ていました。


「(※英)ん~。今日は一日楽しかったぁ」


 私は自分の荷物を持って部屋の扉を開けました。


『きゃっ!だ…誰!?』


 室内には見知らぬ女性がタンクトップにショートパンツ姿で私のキーボード椅子に座っているではありませんか。


「Who are you!?」


 思わず英語で聞いてしまいましたが、その女性は目をキラキラさせながら私に近づいてきます。


『わああああ。本物だぁぁぁ。すご~い。お人形さんみたい。』


(だ…誰なの?あ…でもどことなくママさんにも似てるような…。)


 すると、女性は私の両手を掴んで…。


『(※英)初めまして、私の名前は佐藤 可憐かれんです。大学生で外国語を専攻しているの。仲良くしてください。』


「え…ええぇぇぇぇぇぇ!?」


 突然やってきた義姐おねえさんの帰宅に、私はただ驚くばかりでした。

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