第26話 修羅場なのです。その4

「葵、竜也の事。好きか?」

『ええ…えええ!…。…。うん。好きだよ!大好き!』


 急に話題を振られて、少し考えるのかと思っていましたが、まさかの即答。


「竜也から何も聞いていないようだから、私から言うわ。私は3年前に竜也の婚約者Fianseになったの。だから葵、あなたは私のライバルです」


『…え!?フィアンセ?え?どういうこと?だって、3年前って私達まだ中学生じゃない。子供でしょう?そんなの卑怯じゃない』


 先程までの和気藹々わきあいあいとした顔から一変、葵の瞳は真剣に私の顔を見ていました。それは、私を完全にライバルと認定した瞳でした。


「さっきも言った。私の心臓は竜也のパパの心臓。だけど、移植した体は長く生きている記録が無い。だから、竜也は私の事を元気にするために、プロポーズをしてくれたし、留学を提案したのも竜也です。」


『…じゃあ…じゃあ私はどうなるの?今までずっと、私達付き合っているとばかり…たっちゃん、何も話してくれないし、わかんないじゃん!』


 私もそこまでは考えていませんでしたが、ひとつだけ言える事がありました。


「私は…いつ死ぬか分からない運命です。だから、一緒に竜也を愛すればいい。日本ではダメでも、ひとりの夫にひとりの妻である必要、ない。」


『一夫多妻って事?ってなんで死ぬこと前提なんですか!』


「さっきも言った。心臓を移植した患者は、長く生きた記録が無い。分かっているのは、移植してから10年で、30%くらいの人死ぬ。私は12で移植した。最低でも22がボーダーライン。これ聞いてもまだ分からないか?」


『22って…。大学卒業くらいじゃない…。』


 葵は困惑しているようです。ライバルがいつ死ぬか分からないまま待ち続けても、イタズラに時間が過ぎていくだけなのです。


「私、竜也に後悔して欲しくない。竜也、優しいから、私の事、葵に話さなかった。とても、大切にしてると思います。」

『…。』


 私は過去に自分がした事を思い出しました。


「なら…葵も竜也とセ〇クスすれば良い。」


『な!なんでそうなるんですかー!?』


 葵は顔を真っ赤に染めて、湯船に口まで浸かった。


「日本の性教育は、どこまでやった?アメリカでは(ピーーーー規制ーーーー)。」

『お…大人だ。ブクブク。』


 顔を赤らめて私の話を聞く葵を見る限り、日本の性教育はそこまで深く教えていないのだろうと思いました。

 長い事湯船に浸かりながらの会話で、二人とも逆上のぼせ気味になってきたので、リビングに戻る事にしました。

 脱衣場でも、葵は私の体を上から下までジロジロと見ていました。仕方ないので、私もスキンシップの一環で葵の後ろに回って、胸を鷲掴みにしました。


『ななな!何を!お、おばさんじゃないんですから、そんな、揉まれるほど大きくありませんよ』


 どうやら、葵も竜也ママにをされた経験があるようです。


「ふふふ、良いではないか。良いではないか。」

『シェリーさん!?それ、日本の何を見て覚えたんですかーー?』


 そんな女の子同士の絡み合いで夢中になっていた刹那でした。


ガラッ!


『なんだ、ここにいた…の…か…。』


 物凄いタイミングで、竜也が脱衣場の引き戸を開けてきたのです。


『す…すまない…。いや、ご、ごめんなさい。』


「いやあぁーー。」

『きゃあぁーー。』


バチ〜〜〜ン


 勿論、私達から竜也への両頬に、ビンタが飛んだのは言うまでもありません。


(… … …)


「ごめんなさい竜也。」

『たっちゃんが悪いんだからね、ノックくらい…してくれたって…。』


 両頬に氷嚢を当てながら、お互いに謝罪しました。


『いや…。俺が全面的に悪い…。まさか、お風呂に入っているなんて思わなかったからな』


 そんな私は少しにやけながら、竜也に質問してみる。


「竜也、葵の裸、初めて見たか?」


『そ…そりゃあ、初めて…だよ。』

『シェリーさんに比べたら、貧相だよね。はぁ…』


「そんな事無い。バランスの良いスタイルだと思う。葵、自信を持て。」


『むう、なんかシェリーさんに言われても、説得力無いなぁ。』


 竜也の頬は、二人分の平手打ちのせいなのか、恥ずかしいだけなのか、とても赤くなっていました。


『シェリー、葵。二人共何か俺がいない間に打ち解けてないか?』


「竜也、日本人は裸の付き合いが大事。だから二人でお風呂に入って話をした。それより竜也、私の事、葵に話してない。理由を聞きたい。」


『そうよ!フィアンセって言われたんだからね!意味はちゃんと分かんないけど、恋人って事は分かります!きちんと説明して!』


 竜也は私達に自分の気持ちを伝えました。葵とはやはり、幼馴染と言う事もあり、躊躇ためらいがあったのは間違いないそうです。


『葵、俺が別の女と付き合ってるって言ったら、今みたいに家に来てくれたか?』


『…分かんないけど…。外国人なんだし、会ったばかりなんだから、本気じゃないと思ったかも…。』


 葵の目にはうっすらと涙が見える。さすがに英語が苦手な彼女でも、フィアンセの意味くらいは理解できているのでしょう。そんな彼女に、私はすぐに声を掛けることができませんでした。

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