第25話 修羅場なのです。その3

 竜也の幼馴染と鉢合わせしてしまった私は、彼女としっかりと話をするため、竜也を買い物へ向かわせました。


『ま、マイネームイズ、アオイ、フジタ。えっと、はじめまして!』


(この反応、初めて私と対話した竜也に似ている。でも、このまま英語でいくのは彼女のためにもなりませんね。)


 やはり日本人は英語が得意では無い。竜也ですら出会ってから1年は、翻訳機能を利用しなければならなかったくらいです。


「葵、無理しない。普段通り日本語で話せばいいよ。」


『ちょ!日本語ベラベラ!?何よそれー。』


 私の笑顔と日本語を聞いて、彼女の緊張も少し解けたようでした。


「ふふっ。当たり前です。私、これから竜也の学校へ転入するのですから、日本語を話せる当然の事。コホン。自己紹介。私はシェリー。シェリー・ウイリアムズ」


そう言って私は、マスクを外して彼女に素顔を見せました。


『あ、はい。シェリーって、ええええ!?もしかして、アメリカのYouTuberシンガー、シェリーさんですか!?』


「イエス」


『ほえぇぇ。たっちゃん、よく見てたから、私も知ってるよぉ。あ、日本には留学って事なんですか!?』


「イエス、竜也と4月から同じ学校。」


『あ、私も…竜也と同じ学校よ。結構、レベル高い高校だけど、たっちゃんと同じ学校に入りたくて、頑張って受験したのよ』


 やはり、彼女は竜也の事が好きなのだと確証が持てました。ここまで好きになっている人が隣にいるのに、私の事を言っていなかった竜也は、どんな気分だったのだろうか。そう思うと、私は胸が締め付けられる気分でした。


「葵!」

『は、はい!』


 ここは、あの方法しか無い。以前読んだ日本の本に書いてあった事を思い出しました。


「葵、一緒にお風呂入る!日本人、裸の付き合い大事。本に書いていた。」

『シ、シェリーさん、それなんの本ですかー。』


 私はお風呂場を確認しに行くと、湯船のお湯は少し濁っていて、すぐに入れる状態ではありませんでした。しかし私は、洋服の袖を二の腕までまくると、湯船の栓を抜き、近くの洗剤を使って軽く洗い流す。


『いっいいよ。そこまでしなくても、私は普通に話がしたいだけだし…』


「問題ない。すぐ沸く」


 これは以前、竜也の自宅に来た時に1度だけ見ていました。この家にあるお風呂はが付いているのです。


『た、たっちゃん帰ってきたらどうするの?』

「ん?問題無い。二人で竜也に裸見せれば良い。」


『なんでそうなるんですかー。』


 裸の付き合いなんてただの名目。本当の目的は、私の体を見て欲しかったのです。


『ちょっと…いや、シェリーさん!?』


 湯船の準備ができると、私は脱衣場でまだ抵抗を続ける葵の目の前で、衣服を脱ぎ始めました。


『ちょっ、本当に?ってシェリーさん!?その…傷…。』


 葵もようやく私の手術痕に気づいてくれました。その反応も予想通りです。年頃の女の子が、こんなボロボロの体をしているのに、何も想わない事は無いと、私は想像していたからです。


「葵、気にしないで。これは全て手術によるもの。生きるためにのこった代償です。」


 私は葵の手を取り、1番大きな心臓の手術痕を触らせる。


『こんなにいっぱい…たっちゃんは知ってるの?』


 私は頷いて肯定する。


「勿論、全部知ってる。」


『ってなんで?たっちゃん、そんな事言って無かったもん』


「竜也が、興味だけで私の体を見ると?違う。私が見せた。何故だと思う?」

『分かんないよ!同情でもして欲しかったの?』


「私の心臓は…竜也のパパの心臓。私と竜也の絆。ここにある。」


『っっ!?』


 これは私からの先制攻撃。葵には幼馴染と言う有効な手があるので、軽くジャブを入れて見ました。すると葵も、何か決意したように衣服を脱ぎ始めました。


『わ、私は…貴女みたいにナイスバディじゃないけど、に…日本人好みだと思うもん。』


 そう言う彼女の体は、衣服では分からないほど華奢きゃしゃで、胸も小ぶりだが、その整った体はとても健康的で美しかった。


(竜也も…葵のような容姿が好きなのかな…)


 私達は共にシャワーを浴びている間、終始無言でした。湯船に二人が入ると、さすがに少しお湯が溢れましたが、何とか入る事ができました。


『シ、シェリーさんは、どう生活したら、そんな体になるんですか?』

「??、よく分からない。私は…移植の後、普通では無い生活をしている。だから、ママの遺伝だと思う。」


 やはり葵は、自分の体に自信が無いようで、そのような事を聞いて来たのでしょう。しかし、私もこれといって工夫していると言えば、食生活を気をつけているだけなのです。


「んー。fastfoodはあまり食べて無い…かな。ただ、生、サラダは食べられない。必ず、ボイルしている。」

『大変なんだね。じゃあ…お寿司食べられないじゃん。』


 そんな他愛もない会話が続いていました。しかし、徐々に話題が少なくなってきたところで、私は意を決して葵に真実を話すことにしました。

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