第24話 修羅場なのです。その2
ホテルでの待機期間が過ぎ、コロナの陰性が確認された私は、無事に竜也の家に向かって新幹線に乗る事ができました。
あれからずっと練習してきた日本語は、日常に影響が無いほどに上達し、ホテルの従業員とも自由に会話ができるようになっている事を確認できる良い時間でした。
(書きだけはまだ不安が残っているけど、会話はもう平気だし、読みも何とか出来るようになった。これなら、日本の学校生活に問題は無いよね。)
最寄り駅に到着した私は、駅前でタクシーを拾います。
「よろしくお願いいたします。」
『おや、日本語上達になったね。3年ぶりかな?』
「あ…。」
まさかの再会。最初の来日で私を乗せたタクシーの運転手さんでした。あのときと違うのはマスクの有無でしたが、マスクをしていても認識してくれるなんて、さすが日本の運転手だと思いました。
「はい。いっぱい勉強して、今年から日本の学校へ留学する事になりました。」
『そうかい、そうかい。お客さんのような美人な留学生なら、学校でもきっとモテるだろうねぇ』
「ありがとうございます。でも私、ボーイフレンドいますから。ふふふ」
『あら、それは失礼。どこまで行きますか?』
「あ、はい。XXXの1丁目までお願いいたします。」
『凄いね。住所もちゃんと言えるようになったなんて、かしこまりました。』
笑顔の運転手さんは、あの時と同様、手際良く荷物を積み込み、目的地へ向けて出発しました。
とても緊張しているのか、車内ではほとんど会話が無く、目的地までどこを走ったのか、覚えていないうちに、到着していました。
(大丈夫。LINEでは家にいるみたいだし、車が無いからママさんは不在。何か起こっても目撃者は居ない!)
ドキドキしながら、インターフォンを押します。
すると、家の中がドタドタと騒がしくなりました。中から複数の足音が聞こえるのです。
(誰か居るのかな?)
家の玄関近くから声が聞こえる。
『俺が出るって!』
『大丈夫。どうせ郵便でしょう?受け取るだけじゃない。』
『知り合いだったらどーすんだ?』
『LINE来てないでしょ?』
(ん?女の子の声?)
そう思った次のタイミングで、ガシャッと鍵が開けられ、玄関の引き戸が開けられる。
『はーい。どなた……で…すか…え?』
「… … …。??」
玄関から顔を出したのは、私より背が低い若い女性。私の顔を見るなり完全にフリーズしてしまった様子でした。
『葵ぃ?誰が来た…の、か?えええええ!?シェリー!?』
「… … …はーい。た、竜也。」
私も懸命に笑顔を作り、軽く手を振ります。しかし、内心はほぼ目の前の彼女と同じ。一瞬でも気を許すと、思考がフリーズしてしまいそうでした。
『マジ?アメリカじゃないの?』
「あはは、サ…サプライズ。」
まだ外には雪が残り、吹き抜ける風は冷たい。思考が固まった彼女と共に暖かくなっているリビングへ移動しました。
(彼女…だれ?ガールフレンド?それとも以前話してた幼馴染?)
それは彼女も一緒でした。
((この
しばらくは全員が沈黙していましたが、竜也から行動を開始しました。
『えっと、こちらアメリカから来たシェリーって言うんだけど、3年くらい前に知り合った子…です。』
私はフリーズしたままの彼女に会釈する。
『シェリー、こちらは以前話してた、幼馴染の葵って言います。今日は英語の勉強を、やってました。ほら、俺、英語上手くなったろ?葵、彼女が俺の先生みたいなもんで…。あ、その、何も言わなかったのは、ごめん。』
竜也はそう言って深々と頭を下げる。
(私の事、ずっと秘密にしてたのね。)
私は未だにこの状況を理解しきれていない彼女を、何とかしようと思いました。
「竜也!」
『たっちゃん!』
私が話しかけると同時に、意外にも彼女もまた竜也に声をかけました。私が一瞬、彼女の目を見ると、彼女は何も言わずに頷きました。
(これは、多分私と同じ考えかな?)
そう思ったので、私は発言権を彼女に譲りました。
『たっちゃん!今日、おばさん居ないよね。夕飯作りたいから、材料を買って来て欲しいの。』
その言葉を聞いて、私も続けます。
「(※英)竜也、私も同じ考えなの。材料、教える。買って来て欲しい。」
そう言って彼女にもう一度振り返ると、彼女の目は先程とは違い、しっかりとした視線で私を見ている。
『英語はあまり分からないけど、ミートゥーって事は同じって事だよね。良いわ。私は肉じゃがを作るわ。よろしくね、たっちゃん。』
『いや、マジ?俺だけ?』
「(※英)竜也、私はポトフを作る。材料は同じでしょう?」
『いっ…イエス。』
私達は、竜也に購入材料をメモで渡し、お金は私が出しました。そうして竜也は近所のスーパーへ出掛けて行きました。
(私の考えが間違っていなければ、
幼馴染と婚約者。二人の立場は違えど、竜也が好きなのは間違っていないはずです。
ここで引くわけにはいかないので、全面的に戦う事にしました。
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