第27話 お料理対決なのです。
私と葵は、お互いの気持ちをしっかりと受け止め、理解したことで、
『んでさ…、夕飯は…いつになるん?』
竜也の一言に、私達はようやく今の時間に気づきました。葵は親に連絡を取り、夕飯を食べてくる事を伝えたようです。
『さぁ!シェリーさん。私はまだ負けたわけじゃないですよ。次はお料理で勝負です。』
「葵、料理なら私も負けない。」
竜也の自宅キッチンは、今どきのアイランドキッチンのため、作業は前後に分かれて始まりました。私は意気込んだとはいえ、ちゃんと習い始めたのはここ2年で、包丁さばきもまだタジタジ。対して葵は手慣れた手付きでじゃが芋の皮を包丁で剥いていきます。
(すごい…。私なんてピーラーが無いとポテトの皮を剥くことなんてできない…。)
葵の肉じゃがと私のポトフ。材料はほぼ同じ。じゃが芋は竜也の実家で栽培されている自家製。玉ねぎや人参も同様です。私達が竜也に注文したのはそれぞれに使う肉。葵はどうやら牛肉を使うようです。私は鶏肉です。その他に細々とした材料も足りないと思った物は買ってきてもらいました。
(あのウネウネしたものは何!?)
日本食の材料は、稀によく分からないものが登場します。
「葵、それはなんだ?」
『これ?あ~白滝ね。こんにゃく…だったかな。分かる?』
シラタキと言われてもまるでピンと来ない。私も日本食には興味があり、個人的に味噌スープを作ってみたりはしていましたが、まだまだその片鱗しか知らないのだと気付かされます。
二人共に下準備が終わり、二口あるコンロに深めの鍋を用意して、同時に炒めたり、煮るなりの工程に入りました。リビングキッチンに2つの良い香りが漂い始めます。
私はホテルの朝食以降、何も口にしていなかったので、この匂いだけでもお腹が刺激されてきます。
『あ~俺、ご飯炊くわ。』
竜也はそう言うと、四角の容器からお米を適度に量って取り出す。竜也も炊飯器の使い方には慣れているのか、シャカシャカと音を立てながらお米を洗い、炊飯器の中に投入して電源スイッチを入れた。
(あれはお米を保管しておくもの?)
日本には私の知らない道具がまだまだ沢山存在している。あとで調べたところ、米びつと言うらしい。米食文化日本ならではの保存アイテムなのだろう。
『お…俺だって、ご飯の炊き方ぐらいはわかるさ…。』
竜也は恥ずかしそうに言うと、リビングに戻っていきました。
残る工程はどちらも煮るだけ。私は蓋付きの鍋に対して、葵は深めのフライパンに何やら丸い紙を蓋代わりに被せています。
「葵、それは何か?」
『ああ、落し蓋の事ね』
「オトシブタ?」
『そ、こうして被せておけば…ん~なんだろう。こういった煮物によく使うんだよね。アメリカでは使わない?』
「イエス。料理はポットかパンを使う。蓋…があるからポットはよく使う。」
『ふ~ん。あ、味見してみる?』
葵はそう言うと、スプーン一杯の煮汁を差し出す。私はそれを少しだけ息で冷ますと、口の中に運んだ。日本の食材は私もよく使うが、この甘辛い煮汁は初めてなのに、とても優しく喉を潤していく。
「美味しい…」
『でしょ?日本では”おふくろの味”は肉じゃがからってね。あ、”お母さんの味”と言った方が分かるかな。』
「私のも味見。してみる?」
『うん。』
私は葵がしてくれたように、スプーン一杯のスープを差し出しました。私のはポトフとは言ったものの、本来はそこに麺を加えた「チキンヌードルスープ」がベースになっています。
『わぁ…凄いチキンの香りも良いし、なんだろう凄く健康に良い味がする。それに鶏肉入れているのね。凄く斬新~』
「本当の名前、チキンヌードルスープ。アメリカのソウルフードね。ポトフは元々フランスの料理だけど、母はヨーロッパ生まれだから、いつもはポトフと呼んでいるよ。」
『むぅ…美人なうえに多国籍なんてずるい。こっちは100%日本人なのにぃ』
葵はそう言って悔しさを顔に出す。けれど、初めの頃よりは憎めない顔になっていました。
「でも…。日本はとても良いところ…。国籍や人種に問わず差別が無い。100%日本人だし、なにより健康的な体に生まれている。美人過ぎてもアメリカでは犯罪の被害者になる。みんなが見て”
『ユー…え?何?、ってか…それこそ誤解!日本だっていじめはあるし…。』
『まぁ日本じゃ肌の違いだけで撃たれたりはしないだろうけど、少なくとも子供の時は外見の違いでいじめになることはよくある。そして教師はそれを止めることは少ないからニュースによくなるんだ』
竜也も中学の頃にいじめを受けた生徒を見たことがあるそうで、被害者は結局学校に来なくなってしまったそうです。
「…。その人には罪はない。アメリカなら助かったと思う。アメリカでは加害者が重く罰せられる。一番は退学。」
『そっかぁ日本は中学校まで義務教育だもんね。良くて停学?』
(しまった…ちょっと暗くなってしまったかな)
私の発言で、場の空気が少し暗くなってしまいましたが、そんな時間で二人の料理は完成したのでした。
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