第13話 日本でお買い物しました。

 竜也の家で、父親のPCデータを削除してるところを、竜也ママに見られた私。悩んだ結果、全てを話す事にしました。


『そっかぁ…タロちゃんの心臓…、シェリーちゃんに貰ってくれてたんだね…。』

「あの…怒らない…ですか?」

『なんで怒るのよ。移植にオーケーを出したのは私よ?勿論、タロちゃんの意思表示カードもちゃんとオーケーになってたし、それにね…心臓しか使えなかったんだよね…。他は車の破片が突き刺さって…。うぅ…。』


「ママさん…。」


 涙目になる竜也ママを私は優しく抱きしめ、そして胸に竜也ママの耳を当てました。


「竜也パパさん。ちゃんと生きてます。」

『うん…聞こえるよ…シェリーちゃんの体内なかから…タロちゃんの音が…』


 それからしばらく、竜也ママさんは大粒の涙を流して泣きました。私のシャツが竜也ママの涙で濡れてしまうまで…。


『ありがとう。シェリーちゃんのおかげで、今日も一日頑張れるわ。それより…』


 竜也ママは、再度私の胸を触ってくる。


「きゃっ、だからどうして胸を、触るですか』


『シェリーちゃんはノーブラ派?』


「ち…違う。ランジェリー、小さかった。それしか無かった。出掛ける時、着ける。」


『ダメダメ。ちゃんとサイズに合った下着を買わなくちゃ!』


 そう言うと、竜也ママは壁にかかった時計を見る。


『お店が開くまで、まだ時間あるから…。ご飯を食べましょう。』

「あ…ママさん、私、作りたい。」


 私はそう言って朝食の準備を始めます。その間竜也ママは、衣類を洗うため洗濯機を動かしに行きました。


うちのダイニングより使える家電が少ないけど、何とかなるかな?)


 竜也の家にあるダイニングは、調理器具がアナログで、電子レンジくらいが知っている家電でした。


(ミキサーとか、フードプロセッサーとかないのね…。うーん。これ…かな)


 私が手にしたのは、フードプロセッサーのような歯をした器具。取っ手が付いていて、引っ張ると中の歯がグルグル回るのです。


(うーん。使える…かなぁ?)


 私が作りたかったのは、カボチャのポタージュ。思ってた通り、見つけたのは手動のフードプロセッサーで、頑張って攪拌してできたそのポタージュは、ちょっとミルクの味が濃かったが、私としては上手く出来たと思う。


『あ、優しい味ね。このポタージュ。美味しいよ。』


「ありがとう、です。」

(やっぱり薄かったかな?)


 私も食パンを漬けながら食べてみる。


(うん。大丈夫…だよね。きっと。)


 食事が終われば、私はすぐに食器を洗います。


『いいのよ?シェリーちゃんはお客なんだから、そこまでしなくても、ね』

「あ、私こそ、泊めてもらった。だからお手伝いする。」


 手術前までの私なら、こんな考え方はあり得ない事でした。。それが当時の私だったからです。


 それから私達は、二人でショッピングに出掛けました。竜也ママさんが言うには、ママさんが自分から出掛けるようになったのは、2年前に夫と死に別れてからだそうです。

 到着したのは自宅から車で15分ほどの衣類販売店。そこで私は、ランジェリーのサイズを調べるところから始めました。


『…。シェリーちゃん、ホントに14歳?』

「…あはは。キツイ、思ってた。私も、ビックリ。」


 私のバストサイズは、思ってた以上に大きくなっていました。それはもう店員さんも驚くくらいに。サイズが分かればあとはデザイン。あれこれ考えた末に、当面使えそうな3着を選びました。

 そのままレジに向かい、竜也ママにお金は出すと再三に渡って言ったのですが、竜也ママは支払いを譲ってくれませんでした。


「ありがとう、ございます。ママさん。」

『いいのよ。将来のお嫁さんになる、かもしれないですから、先行投資ですよ。』


 竜也ママはそう言って、私に新しいランジェリーを買ってくれました。


(うん。サイズぴったりのランジェリーは、とても動き易いし、全然苦しくない。)


 デザインも色々悩んだけれど、無難なものにしました。ただ、午前中いっぱいかかってしまい、昼食は近くのレストランになりました。


「ママさん、タツヤに言われた。私、日本、留学、来てください。と」


『あの子がそんな事を?』


 竜也ママは昨日のやりとりを初めて聞いて驚いていました。もちろんアクシデントの事は伏せています。


『んー。シェリーちゃんが大丈夫なら良いんだけど、お部屋借りたり、お引越しとか大変じゃない?』

「タツヤ、家にホームステイ、して、と、言われた。」


『ぶっ!』


 ホームステイの話をすると、さすがに驚きは頂点だったみたいです。


『あー。ホームステイね。確かにうちは旦那が亡くなり、娘も大学で東京にいるから、部屋は空いてるけれど…。あれ?でもそれって同棲にもなるかな?』


「あ…。え?どうせい?」

『そう。同棲。異性同士が、一つ屋根の下で暮らすって事。』

「あーーー。」


 そう言われて私は気付きました。


(んー。でもまぁそれはそれで良いかな。ママもパパと初めてエッチしたとき、交際1日だったって聞くし、タツヤはどうなんだろう?あんなに大胆な告白できるなら、全然問題無いかな?)


「んー。大丈夫。ホームステイなら、持ち物、あまり要らない。」

『そう?私は恥ずかしいですよ?だって、お部屋汚かったでしょう?』


「大丈夫。私の家、同じ事、言える。パパやブラザーは、片付け下手。」


 考えてみたら、異性の家にホームステイなら、同棲と言われても同じ事だけど、これ以上に竜也と距離を縮める手段はない。


「私、タツヤの、フィアンセ、ですから、一緒に住む。問題無い。」

『ホントにあの子もあの子で、随分と大胆な事をしますね。もちろん、貴女の心臓の事も知ってるのでしょう?』

「イエス。知ってる。私の寿命が、短い事も、知ってる。少しでも、一緒の時間、作りたかった。思う。」


『じゃあ、後は貴女のパパとママ、そうじゃない?』

「…イエス。マイダディ、マミィ、私の幸せ、一番。あ!忘れてた。連絡、してない。心配、してる。思う。」

『あらやだ、あっちだと時差10時間以上あるわよね。』


 昼食を食べながらパパとママの話になって、私は両親に連絡をしていなかった事に気付き、慌ててスマホを確認する。すると、とんでない量のメッセージがズラズラと流れていました。

 私は慌てて自分が無事である事を送ろうと思いました。丁度、レストランがWi-Fiに対応していたので、すぐに送る事ができました。

 現地は真夜中のはずですが、返信はすぐに飛んできました。


「よかった…。もう少しで、日本の警察、電話する。危なかった。」

『あはは、ごめんね。いろいろ付き合わせちゃって。』

「ママさん、こちらこそ、ありがとうございます。」


 私の無事が確認されて、ママもやっとベッドに入ることができると考えたら、ちょっと申し訳なく思った私は、笑顔で食事している風景を写真に収め、それも送ってあげました。

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