第14話 しばらくの別れなのです。

 買い物と昼食を済ませて、私達は再び竜也の自宅に戻って来ました。


(片道で来て良かった。往復指定だったらもっとバタバタしたかも…。)


 格安航空での来日は、片道分で購入すると時間に余裕があります。しかし、兄の逮捕で一人旅になってしまっているため、これ以上の長居は両親に更なる心配をかけてしまいます。

 

(でも…もう一泊くらいなら…いいよね。)


 そう思っていたら、竜也が学校から帰宅しました。


(そうか、テストって言ってた。だから午前中なのね。)


『ただいま、母さん、シェリー。』

『おかえり、テストどうだった?』

「おかえり、タツヤ」


 竜也ママの問いかけに、竜也は親指を立てるジェスチャーをしている。


(良かったみたいね。)


『お昼食べる?私達はもう食べてきたけど。』

『マジで?はえーよ。』

『仕方ないでしょ?シェリーちゃんとお買い物に行ってたんだから。』


 こういった会話も、日米であまり変わらないんだなと思いました。竜也ママはその後、仕事のために出掛けていきました。


「テスト、全部、終わり?」

『ああ、終わり。あとは夏休みがもう少しで来る。シェリーは?いつまで滞在するの?』


「私は…。」


 と言いかけて、ついさっき出かけた竜也ママが、耳元で囁いた言葉を思い出していた。


『もう一晩泊まって、たっちやんとエッチしちゃいなさい。ママは許可するわよ?』


 その瞬間、顔から火が出そうになる。


「わ、私は、タツヤに会った。目的、終わった。あとは…あ、ママが、心配している。長くは、居れない。」


 会うという目的は、竜也パパの持つパソコンの画像削除を行う事と共に、既に達成しています。このまま本国アメリカへ帰国しても良かったのですが、私自身がどことなく納得していませんでした。


(このまま、を作っちゃおうかしら…。ママさんも許可してるし…。)


 幼い頃、ママからパパとの馴れ初めを聞いたとき、それはそれは衝撃的でした。母は一度離婚を経験していて、長男と次男は前夫の子。長女と次女である私が、今の夫との子供なのです。そこで母から言われた事が…。


『セ○クスはいわば、コミュニケーションよ。男なんて行為をしちゃえばイチコロなのよ。ただし、最初はコレを使いなさい。絶対ね。』


 と、何故か10枚ほどコンドームをくれました。


(うん、確かに(避妊は重要)そうなんです…けど…。ママ…。私…未経験なんですけど!!)


 私は12歳まで心臓病でまともに動けなかったし、手術してから2年間は彼氏も作らなかった。そんな私に母の性教育はとても刺激的でした。


「タツヤ、もう一晩…、泊まる。良いか?」

『も…もちろんさ。アメリカの話とか色々聞きたいし。』


 そうと決まれば、夕飯も腕を振るわなければなりません。私は竜也と共に近所のお店に買い出しへ行きました。


『スーパーで女性と買い物デートなんて初めてだわ』

「私も、初めて、ちょっと、ドキドキ。」

(男性の胃袋を掴む。あとは良い雰囲気にもっていけばいいだけ。)


 買い物中に竜也の友人に会わないかも心配でしたが、特にそんな事は起こらず、買い物は順調に終わり、二人で袋を持ちながら帰宅。

 竜也は幼い頃から好き嫌いが多かったそうなので、事前に好みを聞いた上で料理の仕込みをしていく。


(私もレパートリーが多いわけじゃないけど、好みさえ分かれば調べる手段はいくらでもある。)


 考えながらの料理は、とても時間の掛かる作業になります。料理が楽しいと思うようになったのも心臓を移植してからで、それまでは言われて初めて渋々動くくらい苦手にがてでした。

 移植後に性格が変わるのもよくある事らしいですが、私も恐らく心臓のあるじである竜也パパの影響を強く受けたのです。

 お互いに何か恥ずかしさがあるのか、終始口数は少なかったですが、それでも竜也は私の料理をほぼ全て食べてくれました。

 まるで新婚生活みたいなそんなドキドキの時間は、すぐに過ぎていきます。私はそんな貴重な時間を少しでも有効に使うため、全てが終わりソファーに二人で座ったタイミングで仕掛けました。


「タツヤ…。」

『な…何?シェリー。』


「セ○クス、したい?」

『な!何を!いきなり。いや、俺らまだ、そんな歳、じゃねえし…。』


 自分でもいきなりなんて分かっています。分かっていてもやっぱり動揺しすぎて、全身から汗がどんどん出てきます。


「だ、大丈夫。タツヤ、アメリカ、セ○クスは、コミニュケーションだから。」

(平気な訳ない!私だって初めてなんだよ)


 ここぞと言う時に、日本人はやっぱり理性的なのか、それとも単なる奥手なのかは分かりません。しかし、竜也は少しモジモジしながらも、私の顔はしっかり見つめていました。


『いい…のか?俺、こうゆうの初めてだし…』

「いいの。私に任せて。」

(きゃああ。どどどどどうしたらいいのよママ)


 私は自分のカバンから、コンドームを取り出す。


「こ、これ、あれば、大丈夫。ね」

『あ、、ああ、あるのね、やっぱり、最初から生は…ダメだね。ははは。』


 私もだけど、竜也もまた動揺しているのが感じられる。そんな二人でしたが、ゆっくりとキスを交わすと、それまでの緊張と理性の紐が切れて、本能のままに体を重ねるのでした。

 行為は1時間にも及び、全てが終わると二人共汗だく、シャワーを浴びることにしました。


「タツヤ、激しすぎ、コンドーム、半分、無くなった。」

『シェリーの中、凄く気持ち良くて、ごめん。大丈夫だった?』

「うん。大丈夫。ってタツヤ?」


 シャワーを浴びる竜也のは、私の裸を見てすぐにしていました。

 

『あはは。ごめん、シェリーの体見てたらまた…。』

「もう。タツヤ。凄い」


 シャワーを浴び終わり、部屋の中もように片付けると、私達はお互いの寝室へ向かいました。


(体がまだふわふわしている…。初めてだったのに…。)


 竜也はとても優しく、でも時に激しく体を重ねてきました。その時の顔を思い出し、私の心はもう竜也の事しか考えられなくなっていました。

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