第12話 男の遺言は、男しか分からないです。
夜寝れず、再びリビングに行こうと思い、階段を降りている私。スマホを見ると日本時間で0時になろうとしているところでした。
(あれ?明るい…。)
明かりの灯るリビングに入ると、竜也も来ていました。
『あはは。シェリーも、かい?実は俺も、全然寝れなくて…』
「うふふ。そうです。あ、ミルクあります?」
『あるよ?あ、もしかして、ホットミルク?』
「イエス。飲みますか?」
『飲みたい。』
私は慣れた手つきでホットミルクを作っていきます。
『やっぱり、外国映画で眠れないとくればホットミルクだよな。シェリーも作れるんですか。』
「ふふっ。ママが良く作ってくれた。作るの簡単、すぐ覚える。」
出来上がったホットミルクを二人で飲みながら、竜也はそれまでやっていた英語の勉強を教えてほしいと、私に言いました。
『実は期末テストで次が英語なんだよね。だから友達とテスト勉強って思ったんだけど、やっぱり遊んじゃうわな。あはは』
「そうなのですか。あ、ここは…。こうで…。アクセントは…。」
竜也の英語力は英文の読みなら、私が見る限り大丈夫と言えるくらい、でもリスニングはもう少し、と言った感じでした。勉強を始めてそれほど経たないくらいで、玄関の方向から鍵が開く音がして、誰かが入ってくる音がしました。
『あら?竜也、起きてたの?あ、そちらがお客さん?可愛らしい
『母さん、おかえり。』
リビングへ入ってきたのは、仕事から帰宅した竜也のママでした。
「初めまして、私、シェリー・ウィリアムズ言います。」
『日本語上手。竜也の母、
『いや、ホットミルクなら平気。美味しいわ』
「ありがとう、タツヤ。」
私達のやりとりに、竜也のママも何かを察してか、顔がにやけているのが分かります。
(やっぱり、タツヤママも美人。お姉さんもいるみたいだし、私の母親と歳が近いか、少し若いくらいかな)
『で?どこまでやったんだい?』
『か、母さん、なんもしてねぇって…。』
『勉強だよ?何勘違いしてるのよ。それとも、ホントに何かあった?』
『な!なんもねーって…。英語の勉強も、手伝ってもらったし…』
息子を茶化す母親は、国や文化が違っても同じなのだと思いました。さすがに夜も遅く、ホットミルクを飲んだあとの私達は、すぐ眠ることができました。
(と言うか…、家族がいるのに何もできないでしょう…。)
翌朝、日本時間午前4時55分…。私は二人が寝静まっているところを見計らい、ある部屋に入っていました。家の内装までしっかりと私のメモに記載されていて、指定された部屋には一台のパソコンが置かれていました。
(本当にあった…。)
私は恐る恐るパソコンを起動する。パソコンはメーカー品ではなく、メモの主である竜也の父親によって自作されたものでした。
(パスワード…クリア…。)
こんなミッション・インポッシブルのような事をするのには訳があります。
『貴女にこのようなお願いをするのは、私が元男として大変申し訳ないと思っている。これは私の未練のひとつであり、突然死の男性の何割かは持っている事だと思う。』
マウスをゆっくりと操作し、指定されたフォルダーへ進んでいく。すると、頼んでもいないのに中身のあるモノが、画像となってどんどん表示されていく。
(きゃあああ。これって…全部女性の裸写真じゃないの!!)
そうです。私のミッションは…。竜也の父親が残したパソコン内の、
(これ…多分、ネット上に拡散している画像…。結構ヤバいものまで…ある…。)
少し興味本心でいくつか見てしまいましたが、私は隅々まで検索をかけては、全て削除していきました。そんな中、デスクトップ上に1つだけ、動画ファイルが置かれていました。
(あれ?この動画だけ、なんでデスクトップ上にあるんだろう…?)
私は不可解に貼り付けられているその動画を再生しました。そこに映し出されたのは、竜也の父親本人の自撮り動画でした。
『この動画を見る人がいるのなら…それは僕が死んでこのPCを受け継いだ人間である事が前提だろう。』
そんな冒頭から始まった動画は、彼の生前を知る事ができるものでした。
(これって…遺書…?かな。それにあの顔…。タツヤにそっくり…。)
動画の彼は、私が今行っている行為をしっかりやってくれるように頼んでいました。そして、嫁、子供達へのメッセージ。数分程度の動画は、最後にこう締めくくられていました。
『俺が先に死んだなら…どこか別の世界で転生してるだろうな。はははは。』
動画を見終わった私は、大粒の涙が溢れている事に気づきました。
(多分…私の
涙を拭い、パソコンをシャットダウンさせると、私は自分の布団へ戻りました。
(男の人って…みんな、あんな画像を保存しているのかしら…。)
私はまだ少し興奮気味の体を抑えながら、再び眠りにつきました。次に目が覚めると、日本時間の午前7時を過ぎていました。
「グッモーニング、タツヤ」
『グッモーニング、シェリー』
竜也は既に学校へ行く準備を整え、朝食を食べていました。
『そういえば…シェリーは俺と歳が一緒だけど、学校は行かないの?』
「ふふふー、アメリカの学校。日本と違う。私グレード7。9月から、グレード8。ジュニアハイスクール3年生ね。今はロングバケーション。」
『マジかよ。文化の違いすげぇな…。帰国したら一級上になるのか…。』
「だから、留学大変よ?アメリカの学校で勉強する。日本の高校も、受験する。」
それを聞いた竜也は、急に頬を両手で叩いた。
「タツヤ??」
『んじゃ、俺はもっと勉強頑張らないといけないな!シェリーと英語で話をしたいし!気合入った!いってきま!』
そう言うと、竜也は学校へでかけていきました。
「いってらっしゃい…。」
(いや、いくらママさんがいるからって…。)
玄関でボーッと立っていると、背後から誰かが私の両胸を鷲掴みしました。振り返ってみると、その手の正体は頭がボサボサのまま起きてきた竜也のママでした。
『むっふ~。若いっていいねぇ。シェリーちゃん。バストサイズはいくつなのかなぁ?あ、歳もきっと若いよねぇ…。』
「ああん。マ…ママさん?い、いきなり、どこ、触ってますか。」
竜也のママに両胸を揉まれて驚きましたが、同性ということもあり、そこは少し冷静になろうと思いました。
「わ…私、14歳。タツヤと同じ。」
『ほほう。14歳でこのサイズ感はけしからん。さすが外国人といったところですね。じゃあもう一つ白状してもらいましょうか?夫の部屋で何をしてたんですか?』
「…。な…なんの…こと、ですか」
(えーーー!?み、見られた!?)
『朝、トイレに起きてみれば、
私は作業を急ぐあまり、見られている事に気づかなかったのです。
(私の
この話を家族全体に話すかどうかは、正直迷っていました。しかし、パスワードを知っている理由を語るには、心臓の話まで含まないと説得できそうもない。
(どうしよう…タツヤだって最初はちょっと怖かったし…。ママさんに話したら、何言われるだろうか)
私は竜也ママに胸を揉まれながら考えました。
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