第07話 来日してみました。

 検査の結果。私は薬物に陰性。兄も体内からの検出は無かったものの、麻薬取締法の所持違反で警察に行くことになってしまいました。

 私は万が一の事も考えて、兄と私の双方用にを作成していたこともあり、多少の時間ロスはありましたが、入国の許可が下りました。しかし遅くなってしまったため、その日は空港のロビー内で朝まで待つことになったのでした。


『(※英)分かったわ…。マイクについては至急、弁護士を送って釈放の手続きをするから、シェリーは安心して日本を楽しんで来て。でも無茶はしないでね。貴女あなたまで危険な目に遭ったら、今後、日本へは行かせませんから。ね』

「(※英)うん…。分かった。母さん、ごめんなさい。私のせいですね。」

『(※英)貴女あなたのせいではないです。マイクの日頃の行いがこうなったのです。』


 そう語る母でしたが、その声は少し震えていました。仕方がないことです。兄弟の中でもとりわけ問題児だった次男の奇行。私が変わった事で、かれも変わると思っていたのでしょう。


(はぁ…単独行動したいって言ったけど、まさか本当に一人になっちゃうなんて…。)


 とにかく、これからの行動計画をメモを見ながら考えます。メモには私が行くべき場所への説明も簡単に書かれていました。


『どの空港からでも良い。まずは東京駅に迎え。そこには新幹線のホームがある。北に向かう東北新幹線の盛岡方面に乗る事。降りる駅は…。』


(新幹線?東北?何のこと?私、全然分からないんだけどぉ。)


 日本の首都が東京だと言うことは勉強で習いましたので、まずは駅に向かえば何とかなると思い、私はまずスマホでルート検索アプリを使用して経路を確認しましたが、そこである問題に気づきました。


(あ…。お金どうしょう。)


 考えみたら財布のお金は全てアメリカドル。日本ですぐ使えない状態だったのです。


(確かに持ってきたのは800ドル…よね。あとはクレジットカード払いの予定だったからなー。電車の乗車券はクレジットカードで買える?分かんない。駅員さんに聞いてみないと。)


 本来の計画通り行かないのが一人旅のよくあるところ。私は周囲を確認しつつ、ベンチで寝てみる事にしました。


… … …。


 寝れない!!!。


(あちゃー。完全にだよこれ。泣)


 確かに飛行機内は映画が観れたり退屈しない工夫がされていますが、私は大半を寝て過ごしたからか、全く寝れませんでした。


(はぁ…仕方ない。換金所が開くまで待とうかな。あと、何か食べるとこ…)


「ノーーー!!」


(日本の空港、夜中開いてなーーい。)


「はぁ…。」


 考え事をしているうちに、自分が空腹であることも忘れていました。私は途方に暮れロビー内を見回していると、意外にも他にお客がロビーに残っているのが見えました。その中の一人で同じロビーにいた私よりか少し歳上の女性が、私と目が合うなりゆっくりと近づいてきました。


(日本人?だよね。)


『もしかして、乗り遅れちゃいました?あ、日本語分かんないかなー。んー』


 その女性は日本語で話しかけてきました。


「あ、日本語少し話せるです。あートラブルあった。日本に入るの遅くなった。」


 私が日本語で返すと、女性は笑顔で持っていたビニール袋から三角に包装された物を私に手渡す。


『そっかー。災難だね。これ、おにぎり。食べて。』

「おにぎり?」

『そ!ジャパニーズフード!』


 笑顔で答える彼女は、夜ギリギリの便で出国予定も、悪天候で飛べず空港に取り残されていたそうです。


(そういえば、私の飛行機も着陸にギリギリの天気だったかも、他の日本人や外国人も同じ境遇なのかな)


「(※英)もしかして、行き先はアメリカですか?」


『おーイェース。サンフランシスコぉぅ』


「あはは。それは…大変ね。私はサンディエゴから来ました。」


『へー、日本語、上手ねー。あたし、英語はあんまり得意じゃないから、スマホの翻訳頼み。』


 彼女、ナツミ コバヤシは、小銭もまだ無かったら私に、飲み物まで買ってくれました。


『シェリーそれ、何の薬?』

「あー、んー。日本語でなんて言うのかな。体の中しないようにする薬。」


『ビックリ!?何だろう。私、ノードクターだから、アイドントノーかなー。』

「ふふふ、ナツミ、無理しなくても、大丈夫よ。会話するくらいなら、聞くこと出来ます。」


『そっかー。じゃあよかったら、ちょっとだけ英会話教えてよ。』

「オッケー、ナツミ。」


 私達はそこから英語の解説を混ぜながら、時間が過ぎていくのも忘れて会話が弾みました。そして彼女の方が先に寝てしまった頃には、夜が明け始めた時間になっていました。


(日本人はが多いって言うけれど、本当なのかも知れない。)


「サンキュー、ナツミ。」


 私に膝枕されながら静かに眠るナツミに、私は小声でそう言いました。それから2時間ほどで起きたナツミは、私にひたすら謝っていました。そんなナツミは、日本人で初めて私とLINE交換した人となりました。


 交換所がようやく開くと、私はすぐにお財布の中身を全て日本円に両替しました。


(うぅ…かなり時間掛かっちゃった…。早く東京駅に向かわないと…。)


 電車の乗車券はクレジットカードで購入できたので、手持ちの現金を減らすこと無く乗ることができました。成田線という電車に揺られること1時間半、私は始めの目的地である東京駅に到着しました。


(ひゃああ。広い駅…。どこに行けば新幹線というのに乗れるの!?)


 そもそも下りた時点で大混乱。私の乗ったはずの成田線は、東京駅到着時には総武線のホームに入ったからです。


(うぅ…一人で大丈夫と思ってたけど、これは思った以上にハードな事になった…。)


 仕方がないので、駅員さんに聞いてみる。


「(※英)すいません。新幹線のホームはどこにありますか?」

『あ~しんかんせんで合ってるかな?それなら、まずはエスカレーターを登って行くんだよ。って分からないか』


 駅員さんは親切に近くのエスカレーターまで、身振り手振りで案内してくれました。


「(※英)ありがとうございます!」

(まぁ…日本語、分かるんだけどね…と言うか、地下すぎるでしょ!地下5階?地上で乗って地下で降りるって何?)


 日本の鉄道事情は分かりません。ですが、周囲の日本人が親切な事に変わりありません。ウロウロしていると誰かしら声を掛けて来るのです。新幹線ホームを見つけるのに、さほどの時間もかかりませんでした。


(片道、高!現金で買うわけじゃないけど、どれだけ遠いところへ連れていくの?メモの私)


 既にお昼近かったので、売店らしき場所でお弁当を購入し、私は更なる移動のため、新幹線に乗り込むのでした。


 

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