第05話 アップしてみました。
『(※英)ハッピーバースデー!シェリー!』
今日で13歳の誕生日を迎えた私。夏期講習もまだ残っているが、今は素敵な誕生日を堪能しています。
この日までに何度も家族からプレゼントの希望を催促されていましたが、私は謙虚にその要望には答えず過ごしてきました。そのためか、兄・姉達の私に対する態度も少しづつ変わっていて、自分たちでプレゼントを探している様子でした。
「(※英)みんな、ありがとう。」
そう言うと、私は用意されたケーキに灯された蝋燭の炎を一気に吹き消した。
『(※英)そういえばシェリー。この間ピアノと共に歌ってもらった動画、YouTubeにアップしたらすげぇ反響だぜ?もう少しで100万再生は行きそうだ。』
一番上の兄デイビットは、映像クリエイターを目指し既に就職している。その勉強も兼ねて、私が歌っている姿を撮影・加工し、顔を出さないよう工夫をしたうえでYouTubeにアップしたところ、日本を中心にアクセスが集中し、コメントから曲名などを教えてくれる人までいました。
「(※英)凄い!私、見ることしかできないけど、兄さんの腕が良いから皆見てくれるんだよね。」
『(※英)いいや…私の腕では、まだまだ大したことは出来てない。シェリー。君の声や容姿が理由の一つだと俺は思っている。』
長男としてプライドの高い兄が、こんな発言をすることは昔からありませんでした。そんな兄から褒められた私は、とても驚きました。
「(※英)そんな…私なんてまだ若いだけで、お姉さんに比べたら全然美人じゃないし…」
『(※英)何言ってるのさシェリー。あんただって母さんに似て美人なんだから、自信持ちなさいよ。』
お姉さんまで何言ってるのだろうか。まだ13歳の私に対して、何を考えているのか分からなくなる。
普段は夕飯時までに帰る事が無い父親も、今日は早めに仕事を切り上げて参加している。そんな父が、両手でパンパンと合図をすると、家族全員が父に注目しました。
『(※英)さぁ皆からシェリーにプレゼントを送ろう。私からはこれだ。』
父親から手渡されたのは、日本語の参考書である。
「(※英)わぁお、パパ。ありがとう。」
(やったー。これで日本語を練習する事ができる!)
さすが子煩悩の父親。欲しい物が分かるみたいなピンポイントのプレゼントに、私は純粋に喜びました。
『(※英)俺は…これだ。』
次男マイクから手渡されたのは、ディズニーの小さなぬいぐるみでした。
「(※英)わぁミッキー!。マイク兄さんありがとう。」
兄さんからぬいぐるみとか、正直以外だったけれど、みんなそれぞれが私の誕生日のために考えてきてくれた事に、私はとても嬉しかった。そして、心のどこかに残っているだろう彼女本人も、兄弟の思わぬ変化に驚いているに違いない。
(私はもう…オジさんではなくシェリーなんだ。私は記憶が混ざりあった事で、魂が入れ替わってしまったのだと思っていたけれど、私という存在が彼女に混ざったから、今の性格になったと考えた方が自然かもしれない。)
少し前から気づいていた。日本人である記憶が少しずつ欠落していく事に…。だから、できるだけ多くのことをノートに書き残すようにしている。思い出せる記憶全て、思い出した時に全て書き記す事で、いつか私が完全にシェリーと一体となり、記憶が失われたとしても思い出せるように…。
―――それから更に1年の年月が、瞬く間に過ぎていきました。私はいつの間にか、”ジャパニーズアニソンユーチューバー”として、学校内でも有名になっていました。
『(※英)俺と付き合ってください!!』
「(※英)ごめん。気持ちは嬉しいけど…」
有名になると、何日かに一人は私に告白してくる男子生徒がいるわけです。けれど、私はどの男子とも付き合う事はありませんでした。その理由は自分でもよく分かりません。学校内で人気の男子でさえ、私の心がときめく事が無かったのです。
『(※英)シェリーって変わってるよね。』
「(※英)そう?」
『(※英)だって、あんた噂では何人もの男子生徒から交際を申し込まれてるんでしょ?』
「(※英)うん。でもさ…。私、去年心臓の移植手術したじゃない…。それでいつまで生きるかなんて分からないのよ?そんなの彼女にしたって、すぐ死んじゃったら辛いだけじゃない。」
『(※英)だからよ。あんた恋愛一つもしないまま死んじゃうつもり?そっちの方があり得ないわ。というか、昔のあんたならもうとっくに誰かとは付き合ってたと思う。二股でも良かったなぁ』
親友のナターシャは、いつも私の心配をしてくれる。幼い頃から仲が良かったし、付き合いも長いので、手術前の性格もよく知っている人物の一人なのです。
『(※英)シェリーって、昔はスペイン語専攻だったでしょ?いつのまに日本語まで習ったのさ。今度日本語教えてよユーチューブの歌姫さん。』
「(※英)ナタリー【ナターシャの愛称】、冗談は止めて。私が知っているのは歌詞としての日本語だから、ちゃんと会話ができるわけじゃないの。」
13歳の誕生日、父から貰った日本語の参考書があったおかげで、私は自分の記憶にある歌詞を理解し、歌うことができました。しかし、いつこの記憶が失われるか分からなかった私は、ユーチューブへ歌声を残す事で、自分の記憶を維持しとうよ考えたのです。結果、その人気は海を超えて日本に届き、時折、日本のメディアが私を取り上げるようになったと聞いている。
そう…私が不安になっていた通り、移植から1年余りで、私の中にある
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