第04話 学校に入ってしまった。

 日本語を話す実験の為、歌を歌ったら母親に聞かれてしまいました。そして夕飯時、私はその事で家族会議の的になりました。

 私の歌声は、壁を通して隣の兄や姉にも聞こえていたのです。


『(※英)シェリー、お前…さっきの歌、なんて曲だよ?』

『(※英)シェリーの歌、とても素敵だったわよ。』

「…。」


(非常にマズイ。兄も姉も私の歌に興味を持ち始めている…。)


 ちなみに上の兄がデイビット。その下がマイク。姉がキャシー。マイク兄さんは友人と出かけていたため、私の歌を聞いていない。父も私と母を送り届けてすぐに、仕事へと戻っていました。


(正直に話せば良いのか…。でも、とても信じてもらえるような事じゃあない。ただ、頭がおかしくなったと思われても仕方ない。)


『(※英)おい!黙ってないで何か言ったらどうだ?』

『(※英)デイブ、シェリーは退院したばかりなのよ、あまり責めないで!』

『(※英)しかし母さん!…っく…。』


「(※英)いいんですお母さん。皆には…家族には…私の体に起こっている事…知って欲しいんです。」

『(※英)良いの?辛かったら言わなくても良いのよ?』


 母はとても優しい。それが彼女にとってプラスだったのかマイナスだったのかは、今となっては分からない。しかし、すぐに怒りを前面に出してしまう兄は、どこが遺伝してしまったのかと思ってしまう。


「(※英)私は手術で新しい心臓を得ることができました。誰の心臓か…なんて誰に聞いても教えてはくれないルールみたいです。でも、私の中で生きているこの心臓が教えてくれるのです。私は…。と」


『(※英)わーお。シェリーそれって本気で言ってるの?』


 キャシー姉さんは、どちらかと言えば半信半疑ってところでしょうか。


「(※英)はい…。病院の先生にもこの事は質問してみました。答えは、稀に起こる現象なのだそうです。でも、研究があまり進んでいないので、詳しくは分からないと…。」


『(※英)じゃ何か?シェリーの中にってことか?』


 マイク兄さんが一番冷静に聞いてくれています。


「(※英)そうだね。もうひとり分の記憶が、私の中に入ったような…。まだ上手く整理できてないんだけど、凄く優しい人…。それだけは言えます。あ…、私が歌った曲の名前は分からないんです。日本語みたいだから、どう表現したら良いか分からないの。」

(本当は【ゆずれない願い】と言う曲だけど、これを英語にすると日本語としておかしくなってしまうからなぁ…今はそうしておいた方が良いと思う。)


 アニソンだけなら恐らく200曲以上は歌えたけど、実際に歌詞まで覚えているのは半分以下。その中でも一番の十八番おはこを歌った結果がこれだ。恐らく彼女自身、元々歌が上手だったのだろうけど、心臓病の発作を恐れて全力で歌った記憶はなかった。


『(※英)まっ…良いじゃねぇか。元気に帰ってきてくれたんだ。もうこれ以上手術することもねぇんだろ?』


「(※英)…はい。…多分。このまま、拒絶反応を抑えられれば、問題は無いそうです。」


 確かに手術は成功したのかもしれない。けれど心臓移植患者の寿命は10年で平均5割。20年以上生きた人はその更に半分。移植の技術自体がこの数年で確立された技術のため、データが少なく未知の領域なのです。


 歌の一件は曖昧な受け答えが続きましたが、移植の影響と言う事で解決となりました。そのあとは普段と変わらない会話がしばらく続きました。


(まずは5年…。この体の年齢で17か18歳になって生きていられるか…。)


 家族の会話を聞きながら、私はそんな事をずっと考えていました。


『(※英)それよりシェリーは今何がほしいの?』


「(※英)あ、え?私?私は良いよ。元気な心臓を貰ったんだもん。これ以上の我儘は言わないわ。」


 こんな状態でいきなり欲しい物を聞いてくる母親に私は驚いて、兄弟の目を気にしする中、そう答えました。


『(※英)何言ってるのシェリー。もうすぐ貴女あなたの誕生日じゃない…。』


「え…。」


 私がカレンダーに目を向けると、そこには【シェリー、バースデイ】の文字が書かれてある。私が気づかないはずです。ドナーの私と患者私、どちらの誕生日も一緒だったのですから。


(7月7日…。私の誕生日。同じだったのか。何という運命的な奇跡なんだ。)


「(※英)あ、あー。そうだよね。でも、本当に良いの。今年は手術が私の誕生日プレゼントよ」


 この発言に、兄弟達が驚いているようでした。


『(※英)本気か?シェリー。去年だって凄え高い本を強請ねだってたじゃねーか。』

『(※英)そうよ。あなた手術で本当に別人になったわ。我儘も言わないなんて変よ。』


(えー?私ってそんなに我儘娘だったの?)


 兄弟の反応に私は、どれだけ我儘だったのかを思い知らされる。

 そして後から知った事だが、現在のアメリカは期末後の長期休暇中に入っていて、学校が始まるのは9月になってからだそう。だから、兄弟全員が家にいたのです。


(ちなみに、私は長期休暇前に倒れて緊急手術したので、クラスメイトより早く長期休暇に入っているから、あと2ヶ月は学校に行かなくていいな)


 と、思っていた時期がありました。


(うー。なんでー?)


 休み中の学校から、急に呼び出された私は、夏期講習を行う事になりました。


『(※英)大手術の後なのに良く来てくれました。』


「(※英)いえ先生。ご迷惑とご心配をおかけしました。」


 私の場合、進級に影響があったのか、復帰後は夏期講習を言い、進級に必要な学力を補う形に元々なっていたそうです。


(事前に参考書やプリントを見ていたけれど、教科書は無いのか。)


 授業はプリントを記入しつつ講義を聞く。私以外の学友も何人かいましたが、記憶にあるイジメっ子の姿はありません。頭が良かったのか、素行が悪くて退学になったのかは分かりません。


(はぁ…若くなったって事は、勉強もやり直しって事…かぁ。)


 12歳【もう少しで13歳だけど】は、日本で言えば中学1年。現地で言えばもうすぐ7年生【グレード7】に入るところ。まだまだ長い道のりだわ。

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