第4話

次の日河童に誘われた話を兄ちゃんにしたが、やはり信じてくれなくて、じいちゃんと山に行くからとついてきてくれなかった。


行くかどうかすごく迷ったけど、河童はやさしそうだったし、じいちゃんやお父さんも遊んだって言ってたから、勇気を出して行ってみることにした。


言われた通り海パンを履いて、水筒を持って小さな肩かけカバンにキュウリもいれた。


昨日の場所に着くと、すぐに河童は現れた。


「よぉ、あ、名前なんだっけ?」

「フミオだよ、キミのなまえは?」


「にんげんみたいになまえはないな。すきによんでくれ」

そう言われてちょっと困ったが

「じゃあ、カーくんでいい?」

「カーくんか、いいよ」

そう言うとカーくんはにやりと笑った。


カーくんはさらに上流に行くと言って川岸を歩き出した。


昨日より早い時間だから明るくて僕と歩いているところを誰かに見られないかまわりを見回したけど、ふしぎとだれとも会わなかった。


気がつくとまわりを木々に囲まれて川のあちこちに岩や石があって小さな滝まである場所に着いた。


「わあ、きれいな場所、こんないいとこがあったなんて知らなかったよ」

「だろ。ここはこの村に住んでる奴でもほとんど知らない場所なんだぜ。フミオには特別に案内してやったんだ」


「ありがとう」

僕は礼を言うと早速海パンになって、川に入った。


水は冷たく、長い時間歩いてきて火照ほてった体をひんやりと冷ました。


「見てろ」

カーくんはそう言うと、ザブンと深みに飛び込むとしばらく姿を消した。


二、三分経って上がって来た時には魚を二匹捕まえていた。


しばらくすると昼飯にしようと言ってさっきの魚を食べようと言った。


「あっ、人間は流石に生じゃ食べれんか。ちょっと待ってろ」

そう言うとカーくんは川辺の茂みに入り何本か木切れを持ってきて、川岸の石を積んでかまどを作りそこに拾って来た木切れを組んで、石を擦って上手に火をつけた。


「これな、田村のじぃさんに教わったんだ」

おじいちゃんがカーくんに教えたなんてびっくりした。


しばらくすると魚が焼けて、カーくんが、「そろそろ食べれるだろ、ヤマメだ美味いぞ」

僕は、お腹がすいていたので、熱々のヤマメを見てゴクリとつばを飲んだ。


 かぶりつくと塩味があったあと、身がほんのり甘くて本当に美味かった。


カーくんは生のヤマメを頭から咥えると、上を向いて、ひと飲みで腹に納めた。


「あっそうだ。これ」

僕はカーくんに、キュウリを持って来たことを思い出してカバンから出した。


「おっ、ありがたい、魚は捕まえられるけど、キュウリは人里にいかないと手に入らないからな。遠慮なくいただくよ」

そう言うと、嬉しそうにきゅうりを受け取り魚とは違ってちょびちょびと少しずつかじっていた。


昼飯を終えると再び川で遊びだした。

「フミオ、おまえ、水に潜れるか?」

「うん、泳ぎは得意だし、潜水も一分くらいできるよ」


「そうか、じゃあもっといいとこに連れてってやるから、ついてこい」

カーくんはそう言うと川の上流に向かって泳ぎ始め、少し進むと手招きした。


 僕は少しドキドキしながらカーくんの後を追って泳ぎ出した。


 

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