第3話

もう僕は声をあげることすらできず、その場に座り込んで兄ちゃんのシャツをつかみながら、ガタガタとふるえていた。


 カゲはどんどん近づいて、ついに川岸につくと、いきものの頭みたいなものが見えた。


 さらにあたりは薄暗くなっていたので、はっきり見えなかったが、河童と思い込んでいたので、それが、河童の頭のサラに見えた。


 「うわぁ!」

 声が出たが、そのいきものは、ひるむことなく川から上がってきて、ついに正体が現れた。


 「かっ、カッパ!」

 それはまぎれもなく河童そのもので、頭のサラ、背中はカメのこうらをせおって、体の色はみどりいろだった。


 そして一歩ずつ僕のほうに近よってきた。


近づく河童をよく見ると思ったより小さく、僕と同じか少し小さいくらいな感じがした。


 座り込んでる僕にさらに近づくと河童はしゃがみこんで僕と目線を合わせた。


 怖かったが、ちゃんと河童の顔を見ることはできた。


 体はみどりいろだけど、顔はわりと小さく、目が大きく丸く、鼻は穴が開いてるだけで口はとがっていて広く横までさけてる感じだった。


「こんちは、おまえ、にんげん?」

 河童がしゃべった。


 ほんとはすごく驚いたけど、ここで大声を出したら河童が怒ってしりこだまを取られるかもしれないと思い、何事もなかったように

 「そ、そうだよ。キミはカッパ?」

と、問い返した。


 「あぁ、にんげんはそう呼ぶな。何しにこの村に来た?」

 河童に言われたので、

「夏休みだからじいちゃんちに来た」


「あー、田村のじいちゃんトコの子?」

「えっ、じいちゃんのこと知ってんの?」


「あー、知ってるも何も、田村がガキの時はよく遊んだからな」

「えっ?じいちゃんが子どもの時から知ってんの?キミ年はいくつ?」


「年?あーにんげんでいう、なんさいってやつ?さあ、いくつかなんて、わかんねぇな」

「そっか、その田村のじいちゃんのまごだよ」


「あーじゃあ、テツオのこどもか?」

びっくりした。

お父さんのことまで知っていた。

お父さんからは河童の話なんか聞いたことなかったのに。


しばらく話してると

「もう、日が暮れたから、今日は帰んな、明日ここに来たらいいとこに連れてってやる。水着も着てきな」 

 そう言うと河童は川の中に戻っていった。



「んー、あれ?フミオどうした?」

目覚めた兄ちゃんが川面を見つめてボーっとしている僕に話しかけた。


「河童……いたよ」

「はぁ、フミオも寝てて夢みたんだろ」

帰り道、何度も河童がいたと言っても兄ちゃんは信じなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る