第2話

十分ほど歩くと橋があり、そのたもとの土手を下って河岸を歩き出した。


 じいちゃんの話では、河童が出るのは、もっとずっと上流の方で歩いてあと三十分くらいかかるらしい。


 「兄ちゃん、ほんとに行くの?」

 「当たり前だろ、じいちゃんが嘘をついてる証明をしてやるんだ」


 「いないと思ってるなら行かなくていいじゃん」

 「ばか、ちゃんと行って、河童なんて、いなかったことを見なきゃ証明にならないだろ」

 別に証明なんかいらないと思った。


 時間はまだ三時くらいだったから日射しも暑く汗がだらだらと流れた。


 「ちょっと休憩するか」

 兄ちゃんもさすがに暑かったみたいで、二人で水筒の麦茶を飲んだ。


 「ちょっとくれよ」

 言うが早いか兄ちゃんは僕の水筒を奪い取ると、フタを開けてゴクゴクと麦茶を飲み始めた。


 「なんだよ、自分の飲めよ」

 僕が怒って水筒を取り返そうとすると

 「だってフミオの麦茶は甘いから、疲れた体には甘いのがほしくなるんだよ」

 ばあちゃんに言って僕はさとう入りの麦茶にしてもらったが、兄ちゃんはさとう入りなんて小さい子が飲むもんだとか言って、さとうを入れないでいいって言ったくせに。


 十分ほど休憩したら、行くか、と兄ちゃんは言って立ち上がった。


 仕方がないので僕も立ち上がり歩き出した。

 四時を過ぎて少しだけ日がかたむき出した。

 じいちゃんの言っていた河童がいるあたりにだいぶ近づいた。


「よし、この辺だろ。ここでタイキだ」

 そう言うと兄ちゃんは土手の草ハラにドカッと座り込んだ。


 仕方なく僕も隣に座ると川の流れをボーっと見ていた。


 さらに日がしずみ、太陽が山に隠れてあたりがかなりうす暗くなってきた。


 その時、バチャッと音がして川面かわもに水しぶきが上がった。


「お兄ちゃん!」

 声をかけて兄ちゃんを見るといつの間にか、グウグウといびきをかいて寝ていた。


「お兄ちゃん、起きて!」

 体をゆすってもぴくりともしない。


 その時ふたたび水面からバチャッと音がしてさっきよりさらに大きくしぶきが上がり、

水の中を何かが泳いで川岸の僕のほうへ向かって来るカゲが見えた。


 

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