第9話 おでかけ
目的地に向かう車内の中。運転席がある前の席には私の兄、助手席には舞達の姉が座っていた。他の人は後ろの席である。車の構造は、運転席も含めて、3列あり大人数座れる乗用車だった。舞達の家の車らしい。これなら、大人数でのお出かけもできるというものである。私は運転席の後ろのシートに座っていた。
後ろの席の空間では微妙な空気が流れていた。
「もー、機嫌直して。ね?」
「すねてないし」
そう言うと、心音はプイット窓の方に顔をそむける。明らかに拗ねてるじゃん。
どうしてこうなったかというと、私たちに原因があったりする。いや、私たちにないと心音はすねたりしないけどさ。
別に拗ねてるわけではない。決して、怒ってるわけでもない。すごく驚いて、頭を整理しているだけである。
待ち合わせの時に二人の後ろから出てきたのは、水無月後輩、つまり、
あまりに驚いて、何も言えずに固まってしまった。何も言わなさすぎて、あっちから、「あのー」と声をかけられ手を目の前で振られたぐらいである。
そんな感じで出発前に、驚きを提供されて今に至るわけである。驚きながらもしっかりと車には乗った。車内で説明もうけ、何回も繰り返し謝罪共に聞いた。
うーー、「知らない」と一回否定されてるが、言われたら気づけたとも思う。気づけたか?説明の中では、いい時に驚かせるために黙ってたらしい。サプラーイズって言ってでてきてるのだ。急な出来事で整理できないが、まぁ、最初よりも落ち着いてはいる。なぜか、納得もしている・・・・心の底では気づいていた、そうならいいなぐらいに思っていたのかもしれない。
今は、怒っているというよりも、二人の「・・・やりすぎた?」みたいな感じであたふたしてるのが面白いので、着くまでこのままの態度を貫いていこうと思っている。
助手席に座ってる舞と空のお姉さん、
これぐらい、いいでしょう。驚かされたんだから。
窓の外を眺めながら、これからのことについて思いをはせていた。
今日の目的地に着いた。
車を停めて、兄と麻耶さんは受付に。私たちは待ってる間に周りを散策することにした。待っている間に周辺を散策すると言っても、中に入らないため駐車場を中心とした施設の外まわりのみだが。
着いた施設は、大きく、道の駅みたいにお店が隣接されてるだけでなく、屋台なども出ていた。ベンチなどちょっと外で休憩できるスペースもあり、外観もきれい。建物自体は木製であったかい空気を感じる。
「すごいねー。自然豊かー。さすが山の中」
「そうだね」
広い駐車場の周りにも木々がたくさん生えており、そのような印象が強く映る。ある程度見終わったぐらいに、
「おーい、受付終わったぞ」
と兄たちが呼びに来た。
施設内に入り、係員からの説明を受ける。メインの建物のここには、受付やお店だけでなく温泉、ちょっとした宿泊スペースといったたくさんの施設があるらしい。外から見ても大きい建物だとは思っていた。説明を受けるたびに外から見たあそこがそうだったのか、そうなってるのかと驚きを受ける。
簡単に施設を回った後、今日の目的でもあるグランピングに向かう。
建物には、入口の反対方向に大きな出入口が設置されている。そこを抜けると、キャンプ場、グランピングができる広場が広がっている。出てみると、広さを実感でき、端が見えないぐらい広い。設置してある地図を見ても広さ、設備の充実さがわかる。これだけの規模の施設だと思ってなかったので、純粋に驚く。
主に5つのエリアに分かれてるらしく、今回予約していたグランピングのエリアに向かう。予約していた場所には、テント2つに、タープなど諸々の準備がしてあり、後は荷物などを置いてゆっくりできる状態になっていた。
今回、予約したプランは一泊でき道具も借りれるというものである。本当に、専門的な道具は必要ないというプランであり、外でご飯を食べるなら材料の準備だけをこちらで行うというものであった。
今は、11時近くでもうすぐ昼ごはんの時間である。
「よし、じゃあ荷物おいて準備するか」
兄がいって、それぞれが準備に入った――
昼ごはんも終わり、13時と昼のいい時間である。片付けを炊事場でやっていると、
「じゃあ、大体の片付け終わったし、あとは任せて遊びに行って来てもいいぞ」
と言ってくる兄。
「じゃあ、そこらへん散策に行きませんか!」
「いいねー。ね、心音?」
「うん、いいけど。本当にいいの?・・・手伝うよ?」
「大丈夫だよー。ほとんど残ってないし、大変なことがあってもこいつにやらせばいいし」
「あ?・・・・まぁ、こっちは気にせずに行って来いよ。こっちはこっちでやるからさ」
二人がそう言うなら・・・・。お言葉に甘えて遊びに行くことにしよう。
舞、空と施設を回ってみることにした。キャンプ、グランピングエリアだけでも広い。炊事ができる水道を始め公園のようなピクニックができるような広場まであった。
広場の遊歩道を歩きながら、散歩する。
「ほんとに、いろんなところがありますね」
「そうだね」
「ねー、自然もきれいで整備されていて過ごしやすい」
そうなのである。道も整備されてることながら、周りの景観も整備されている跡がある。自然調ではあるが、人が歩きやすいようになっていたり、広場は芝生のように短く草原のようにしてある。施設もきれいにしてあり、使用するお客さんが使いやすいようになっていた。それに、各エリアがテーマに沿ってしっかりと作り込まれている。秘密基地がテーマのところは、木陰で少し小高い所にあり、小さなスペースに区切られ落ち着いて過ごせるようになっていた。
散歩から帰ってくると、兄たちはテントの前に椅子を置き、座っていた。タープがいい感じに日光を遮り心地の良い日影ができていた。そこに二人は座っていた。
「やー、戻ってきたね。もう少し、歩いてくるかと思ってたよ」
「どうだった?」
「よかったよ!本当にいろな施設があって・・・・
先ずは水無月後輩が興奮気味に話しだし、楽しい報告会が始まった。
あれから私たちは見たものや行ったところの話を二人に話して楽しい時間を過ごした。そして、ゆっくりと夕ご飯の時間まで過ごした。
夕飯の準備を全員で始める。
「夕飯は・・・・カレーです!!」
と勢いよく発表し盛り上がるみんな。そして、炊事場に行く者、その場で準備する者と役割分担してわかれた。
私は麻耶さんと一緒にテントで準備である。机の上を片付け、食事の準備を進める。机を拭いていると、
「ありがとうね、心音ちゃん」
と突然に言ってきた。
「?・・・準備はしますよ?」
と返すと、笑いながら
「そうじゃなくて。空と仲良くしてくれてありがとうってこと」
と笑顔で言ってくる。
「あの子はね、皆の前では元気にふるまってるけどね、一人になるとふさいでるの」
準備にもめどがつき、椅子に座って料理班を待ちながら話をしていた。
「向き合って、ある程度は受け入れたかもしれない。でもさ、簡単には全部吞み込めないじゃない」
明るく言おうと努めているが、顔に悲しみと優しさがこもった顔をしながら話してくれる。目にも涙が溜まり、「ごめん」と言いながら拭う。
・・・全部はわからないかもしれない。私は麻耶さんたちの気持ちを完璧にはわからないのだろう。でも、私は似た感情を知っている。悲しみを、残された人の気持ちを。
「・・・でも、”君”が出会ってくれた。それから、本音をこめて元気な姿が増えたんだよ。・・・夜中出るのも心配だったけど、親切なお姉さんに出会ったっていうしね」
と、最後は茶目っ気をいれて締めてきた。もう、急に。
「やめてくださいよ」
「ふふ」
お互いに笑い合う。一通り笑い終えると、
「本当にありがとう、心音ちゃん」
とまた、今度は真剣に伝えられるのだった。
話をしているうちに、舞達が帰ってきた。
「仕事をさぼって、何を盛り上がってるの?」
「もう終わってるよ、こっちは」
「確かに」
「えーー」
その、わざとらしい反応を見ながら、また笑いがあふれた。
麻耶さんの「さてと、」と共に席を立ち、それと共に準備を再開する。
カレーは美味しかった。今回のカレーは、昼の残り物も入れた今日の特別製である。昼に、BBQであった。その時の肉と残った野菜が入っているのだ。作ってる側も、おぉ!え!と言った驚きの声が挙がりながらも楽しく作ったらしい。これによって具沢山のカレーができたのである。おいしいはずである。
・・・うん、味は本当に美味しい。なんか悔しいが。
楽しい食事の時間も終わり、空も暗さが増してきて焚火の火が幻想的に揺れる。
テントの前でチェアーに座り焚き火を囲み、その場にはゆったりとした空気が流れていた。コーヒーを飲む、談笑するなど皆思い思いにすごす。
「いいですね、焚き火」
「ねー、心音は?」
「うん。いいね、この感じ」
焚き火をほめながら、火の揺れをみる。何だろう、暖かいし、落ち着く。無言になりながらも焚き火を見つめる私たち。そんな中、ぱちぱちと音を上げながら、焚き火は揺れて立ち上っている。
「・・・妹たちよ、何か飲むか?」
兄が聞いてくる。
「コーヒー、ココア...」
種類もしっかりと説明してくれる。「じゃあ、、、」と言って、各々が決めていき、兄が焚き火の火を利用しながら、お湯を沸かす。自然の中にお湯が沸いていく音が響く。なんかいいな。自然の中で、ゆったりとできる時間。・・・本当に。
それぞれ、入れてもらった飲み物を飲みながら椅子に背を預ける。
楽しい時間は過ぎるのが早い。あれから、ゆっくりしながら、マシュマロを焼いて食べた。柔らかく、甘くておいしかった。こういう時にしかできない食べ方である。舞や空は何回か溶かして失敗していたが満足そうであった。それに比べて、麻耶さんは一回も失敗せずに完璧であった。流石である。
みんな満足の空気が流れて、座っていると時間もよい時間になってきたので寝る前に星を見に行こうという話になる。そう、今日のメインである。
テントを立てる区画でもはっきり綺麗に見える。
この施設は満天の星空の観測も名物の一つである。私たちは昼に冒険したときに見た広場の方に移動していた。私たち以外にも見物客がいた。レジャーシートをしいて見る人、立っている人、座っている人、様々である。
広場の上では、満天の星空が広がっていた。ここは、標高が町より高く、しっかりと一つ一つ星がはっきりと輝いて見える。近くに感じ、思わずつかめるのではと錯覚してしまうほどにはっきりと見える。
「・・・綺麗」
本当にその通りで、全面的に同意である。思わず、口からこぼれるように感想が漏れる。
しばらく、全員が星に見とれていた――――
テントに帰ってきても、感動が抜けなかった。帰り道の道中も嚙みしめ、たまに上を向いたりしながら帰ってきた。
それぞれに感想を口にするが、寝た方がいい時間が近づいてくる。
先に、10代組が準備を済ませて寝ることにし、布団に入った。
・・・眠れない。目が開いてしまう。天井を見つめながら、隣の舞を見る。・・・し寝ている。
起こさないようにテントから出ると、兄と麻耶さんが焚き火を囲みながら椅子に座っていた。
近づくと、
「あ、起きたか」
こちらに兄たちが気付いた。
「うん、ちょっとね」
「そっか」
と言って、近くの椅子の背を叩きながら、「座れば」とでも言うように促してくれる。
椅子に座り、焚き火を見ながら、飲み物に口をつける。温っかい。息を吐きながら足を抱え込み椅子に背を預ける。空を見上げると、タープの端から夜空が輝いて見えた。
「・・・ちょっと歩いてこようかな」
私がそう言うと、
「そっか」
といって何かを考えるような顔をする兄。そして、
「あまり遠くに行かないこと、遅くなりすぎないこと、携帯の連絡を取れるようにしておくこと」
と言ってきた。もう、慣れた言い回しである。まぁ、私のせいでもあるが。
「うん、わかった。約束する」
「おう」
そのあと、どこまでならいいのかを確認し、私は夜の散歩に出た。
出る前に、麻耶さんから「空も出たから良かったら一緒に周ってくれない?」と言われた。それは自体はいいので「はい」と答えて出たのだが、そうかやっぱり彼も起きたか―――
夜道を歩く。さっきも思ったが、昼とは違う雰囲気が醸し出している。各テントのランタンや光。そして、道にはライトが下にあり不自由ないくらいの弱い光で照らされている。そこに夜空も加わり、光たちによっって幻想的な光景、空気が流れていた。
広場に着くと、そこには、空が居た。
なんとなくは思っっていたが、やはりいた。私は彼に近づき声をかける。
「ねぇ―――」
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