第8話 ”きょうだい”

 私は、公園にきていた。日中よりも、夜風が出ていて過ごしやすい。夜風で髪が流れる。今日は、ベンチに座り過ごしていた。晴れていることもあり、月、星が出ている。

 ほかの人影は見えない。いつものことだが、貸切気分である。その気分のまま私は、を待つ。会う約束をしてるわけではないので会えない可能性もあるが、会えると信じて待つ。私は、彼に最後に会ってから、正直に言って避けていたと思う。理由は簡単だ。自分の姉と重なるのだ。似てる似てないではない。自分にとって近しい人が、自分と同じくらいの年の知り合いがなくなるのは、精神的に受け入れることができていないのだと思う。でも、それでは駄目だと思っている。あれから、一ヶ月経とうとしてる今。私は、前に進みたい。現実を直視し、前へ――


 公園にきて、しばらく時間が経った。

 「あれ、先輩?」

と声がかけられた。もう、来ないかもと思い、もう少し待ったら、帰ろうと考えてた時であった。

 「こんばんは。後輩」

彼は隣に座り、しばらく沈黙が流れる。彼の方をチラ見してみると特に気にしてないように普通に過ごしている。心の中でどう思ってるかわからないが、私は、正直に言って内心ドキドキと緊張してる。なんて話始めればいいのかとか考え、わからないでいる。

 彼が口を開くのが早かった。

 「・・・ねぇ、先輩気づきませんか?」

 「ん、なにが?」

何の事だろうか?髪型?と言ってもわからないし。いつもと格好が違う事だろうか?格好は今までの長袖、長ズボンでなく、短パン、半袖を着ている。上からは薄いカーディガンを羽織ってるぐらいだ。えーと、なんだろう。

 「えーと、なんだろう?格好?」

 「格好もですけどー」

といい彼は席を立ち、私の前に出る。私の方を振り返り、月明かりが髪にあたり、きらりとひかっていてきれいである。そして、目もきらっと光っている。目は青色に輝いていた。

 「あ、」

 「気づきました?そうです、目の色が違うんです」

 「どうしたの?元の色がそれ?」

 「ふふ、違いますよ。カラーコンタクトを入れてるんですよ」

と嬉しそうに、そして少し恥ずかしそうに言った。どう、どうと聞こえてきそうな感じでもじもじと動いてた。正直に言って似合ってる。白髪も相まって似合ってるのである。月明かりもあたり、周辺の空気がきれいに輝いてる雰囲気である。うーん、正直に言うと調子に乗りそうなんだよなぁ。まぁ、少しは褒めとくか。

 「おお。・・・うん、似合ってるよ。どうしたの?」

 「本当に?なんか間があるんですけど」

 「本当だよー」

 「そうですか。ありがとうございます。これは、姉にやってもらったんです」

と答えてくれた。

 話によると、彼の姉はコスプレをたまにするらしくその関係でカラコンを持っているらしい。で、今日借りたというわけだ。

 気づいたら、普通に話せている。あのことに触れていないとはいえ、普段と同じように話せている。・・・少し安心した。あの話をしたことにより、お互い気まずいままで、普段通りは無理かと思っていたからだ。このまま、楽しい時間を過ごせるかもしれない。でも、、、。逃げないと決めたから。受け止めると。

 「あのさ、、」


 彼は私の隣に座り直し話をする。

 「私は、前に死ぬという話を聞いてから、考えたけど実感がわかなくて、まだ受け止められてないと思う。現実から目を背けたい自分もいるの。でも、私は、現実を受け止めて進めるようになりたいの。だから話せる範囲で話してほしい。」

 「忘れていいって言ったのにー」

と力なく笑いながら言った。不思議なのは、完全に嫌がってる感じが言葉からしない。ぽつぽつと少しずつ語り出した。

 「・・・ぼくは体が元々弱かったんです。たまに体をこわして入院するぐらいだったんです。・・・けど、1、2年前かな。大病が見つかりましてね。それで、余命宣告されたわけです。詳しくはわからないけど、1~2年ぐらいだと」

 話が終わり静寂がしばらく流れる。何て言えばいいのかわからない。言わないといけない。何かを。口を開こうとすると、彼が立ち上がり先に開く。

 「・・・だから、死ぬんです。決定なんです。奇跡が起きたとしても、完治という奇跡でしか無理なんです。・・・早いか遅いかなんです」

最初は勢いよく言っていたが、後半は弱々しく彼はこっちを向かずに言った。無言になってしまう。大変だったね、いや、簡単に言ってはいけない。受け止め、優しく言っているように見えるが、本人にしかわからない苦しみがあるはず。ごめんよ。私のために。

 「・・・ありがとう。ごめんね。言いずらいことを聞いてしまって。結局、自己満足だけど怖かったんだろうね。何も知らない間に、知っている人がいなくなるってことがさ。・・・姉はね、私にね最後まで言ってくれなかったの。・・・隠してたの。本当にごまかせなくなるまで」

思わず言葉に詰まる。声を振り絞りながら言う。

「・・・思ったよね。言ってくれれば。もっと早く何かできたかもしれない。受け入れることができたのかもしれない。わかってる。もしもはない。それでも、思ってしまうの。姉が突然いなくなった喪失感?それもあるかもしれない。いろんな気持ちが入り混じって、、気持ちがわからないの。どうしていいのかがわからないの」

いつの間にか、私の目からは涙が流れていた。

 「だからこそ、ありがとう。何も知らないよりはよかった」

と力なくでも笑顔になるように努めて言う。いつの間にか隣に座り直し、彼は私の言葉を黙って聞いていた。顔は下を向いているため、顔色をうかがうことはできない。少し時間が経ってから、急に彼の方からパンという音がした。彼は前を向いて頬をたたき、よし、と言っていた。その後、こっちの方を向き彼が口を開く。

 「感謝はこっちの方もです」

優しい声で、真剣に伝えてくる。

 「感謝というよりは、何でしょうか。気持ちを聞かせてもらって嬉しかったです。自分もまだ整理できてないですけど、それだけは確かです。ぼくはこれから残されるより、残す方になってしまうと思うんです。・・・だからこそ気持ちを聞けて良かった、良かったと思います」

本当に真剣にそう伝えてきた。

 「気持ちを偽るつもりはありません。ただ、やっぱり怖いんです。周りにはいないですし。自分だけ、何で?とも思ってました。支えられてることもわかってるけど、本当の意味でわかってたかというと、わかりません。ただ、今気持ちを聞いて、周りはそう思ってるのかもと、、今聞いて、何というか今前よりも実感出来てると感じるんです。だからこそ、ありがとうございますなんです」


 思いのたけをお互いに打ち明け、今は椅子の上でゆるりと過ごしている。特に深い話をするわけでなく、ただただ過ごしている。

 「そういえば、気になりませんか?僕が外にこの時間帯に出れてること」

 「気にはなるけど。どっちでもいいかなー。そんなこと言ったら、私もだし」

彼は「そうですけどー」と言いながら、不満がありそうな顔をしている。


 「それなりに条件つきで、来てるんですよ。当たり前のことだけですけど」

と言う。条件と言っても体調が悪いときは出ない、行く時は連絡する、危ないことをしないなど、当たり前のことだった。そもそも家が公園の近くらしい。本当に近いらしい。私自身も近いので意外と近所なのかもしれない。そんなことを思いながら、話を聞いていたら、

 「そういえば、僕には二人の姉がいるんですよね」

と言う。

 「一番上の姉が、警察官なんですよ。偶に公園の見回りもしてくれてるんです。・・・やっぱり、心配してくれてるんでしょうね」

と笑って言う。「そうだね」と相槌をうちながら、お互いの”きょうだい”の話をしていく。

 「私もね、姉以外に兄がいるの。兄が一番上で、偶然なんだけど、警察官なんだよね」

 「えっ、そうなんですか!」

 「そうそう。もしかしたら、職場が一緒かもね。見回りしてくれてるみたいだし」

 「へー、すごい偶然ですね」

そんな話をし、いい時間になったので解散した。


 今日は、話せて良かった。まだ、完全に思い出として消化はしきれないが今まで逃げて、目をそらし続けていた気持ちに少しでも向き合えたと思う。本当にいい機会になった。これからも、向き合い続けよう。色んなことに―――

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