第6話 雨中の告白
また、彼としばらく会うことなく、6月に入った。梅雨に突入したことにより、雨が多い。ほとんどの人がいやそうにしている。だが、私は雨はそんなに嫌いではない。
「・・・最近、雨多いね。気がめいりそうだよ」
「そう?雨そんなに嫌いじゃないよ。私は」
「そういえば、そうだったね~。・・・うーん、やる気が吸われているきがするー」
「気のせいだよ。今日も部活あるでしょ?」
「まぁ、あるけど~。天気に左右されませんけど~。・・・楽しみは部活と休憩だけだと思うなー、私は」
「そう言って、結構あるでしょうに」
私に言われて、うーと言いながら、机に伏せながら、ふてくされたような顔をする舞。まぁ、雨より晴れた方がいいのかもしれない。
舞は私の方をじーと見ながら、まじめな声で私に声をかける。
「・・・ねぇ、心音はさぁ、もう部活やらないの?」
「・・・。うん、今のところやる気はないかなぁ」
と笑いながら言う。
「・・・そう」
目をつむりながら舞は言った。
雨の勢いは強くなっていき、壁や屋根にあたり音を立てていた。
授業が終わり、下校するころ。朝から降っていた雨の強さは弱まり、大雨から小雨になっていた。
「おー、雨弱くなったね~」
「そうだね。帰りが少し楽になったかな」
「部活が終わるころには、止んでるといいなー」
「どうだろうね。1日中雨だった気がするけど」
そんなとりとめのない会話をして、舞と別れる。
雨が降ってる時も、別に散歩を中止したりはしない。さすがに大雨で外出が危ないというときは控えるが、今日は、そこまでではない。
雨の中の散歩も、私は好きである。外を歩くのだから雨がうっとうしいという人もいるだろうが、雨だからこその楽しみもあると思っている。昼と夜でも違いが出るが、天気でも違いがでる。どのように空気が違うかと言うと、雨と晴れでは、景色、雰囲気がまったく違うと感じている。雨の音だけが耳にきこえ、周りに人がいない静かなところに伝う雫や音が醸し出す空気感が好きなのだ。
雨の日はさすがにベンチに座って過ごさない。濡れてしまうという理由もあるが、晴れの日だと、行く回数が少ない好きなスポットがあるのだ。
この公園には東屋がある。和風と自然が織り交ざった空気の場所である。砂利と藻といった背の低い植物に、本当に小さな川があり、橋がかけられている。そのような、和テイストの空間にポツンと東屋が一つ立っているのだ。公園の隅のほうにあるため、あまり人がこない。私の季節に関係しない好きな場所の一つだ。
東屋は半分は壁に囲まれており、入口の所だけが開けられている。そして中には、大人数で囲めるような横1メートルくらいの長方形の机と壁際に作られたベンチがあるだけである。
私は、東屋でゆっくりと過ごす。その間も、雨が止むことなく、降り続き屋根から落ちる雨音が聞こえるだけであった。
今日は、曇り。昨日の雨よりは傘の心配をしなくてもいい天気になった。
「おはよう~。心音。昨日は寝れた?」
「おはよう。どうゆう意味で聞いてるの?舞」
「ふ。家にいたのかなー、と思ってね」
「おあいにくさま。昨日も外出してましたよ。さすがに、いつもよりは早く帰ったけど」
「そう?風邪はひくなよー。・・・そういえば、空くんだっけ昨日は会えたの?」
「いや、昨日は会えなかった。まぁ、会えない日もあるでしょ」
「そうだよねー、心音みたいに感覚ばかになっていないだろうしね」
「どうゆう意味よ」
「さぁ?」
とおどけて答える舞。バカだから風邪引かないとかそういう意味だろうか。私は、あんたより点数いいっての。
ここ数日、公園に彼は来なかった。毎日来るとは思ってないし、私も来ない。ただ、彼は急にぱたりと来なくなる時がある。別にいいのだが、少し寂しい気もする。その気持ちに気付き、自分でも驚くそんなに私は、あの空間を好きに、彼に心を開いていたのかということに。
今日も東屋で、私は、ゆるりと過ごす。彼は今日も来ないのであろう。もしかしたら、雨の日は来ないのかもしれない。そう思いながら、私は、本の続きを読む。
雨音が響く中、パシャパシャと別の音が混じって聞こえる。入口の方で止まった音の方を見てみると、彼がいた。
「久しぶりですね。雨の日も来られんですね。先輩」
「久しぶり。そのセリフはどちらかというと私なんだけど・・・」
とどんどん声が小さくなりながらも答える。かれは、「隣いいですか?」と聞きながら、座る。彼の格好はいつもと少し違っており、カッパをきて長靴をはいていた。
「雨の日もいいですよね」
「そうだね」
しばし無言の時間が続いた後に口を開く。
「元気だった?」
「元気ですよ。どうしたんですか?急にあった親戚みたいなことを聞いて」
「いや、特に意味はないけど。世間話の導入部分だよ」
と言う。実を言うと、何を話せばいいのかがわからなかったという意味もなくはない。
「いやー、もう梅雨ですよね」
「そうだね」
「梅雨といえば、紫陽花見たくないですか?」
「行く?雨もひどくないし」
「行きますか。近いですし」
東屋の近くに池と紫陽花などの植物が咲いているところがある。本当にこの公園はいろんな季節物があり、四季ごとの景色が見れてすごいと、何かを見に行くたびに思う。
今日は、紫陽花をみて、解散となった。
「へーアジサイねー」
「何?」
「仲がよさそうでナニヨリダナーって」
どうしたのか、棒読みで言う舞。ん?と不思議そうな顔をしていると、
「それにしても、心音は季節が好きだよね」
「?」
「まぁ、季節というより、桜といった自然?好きでしょ」
確かに。好きだとふんわりと思っていたが、指摘されると確かにと思う。でも、どちらかと言うと好きだったのは.....
「・・・大丈夫?」
「ん?、何が」
「いや、なんでもない」
考え込んでいたが、舞の声で我にかえる。あと、大丈夫だけどどうしたのだろうか。
「お、もうすぐ休み終わるよ。教室戻ろう?」
そう言われ、時間を見ると昼休憩が終わる時間が迫っていた。教室に戻ることにする。外は雨がまだ降り続いていた。
彼と数回短時間会うことはあったが、また、1,2週間彼と会うことはなく、6月も末になる。風邪でもひいたのだろうか。それなら、お大事にである。
「本当に風邪ひかないよねー」
「ちゃんと気を付けてますから」
「はー。そうですか」
「何?何が言いたいんですかね」
頬を膨らませ、舞の方を見る。だが、どんどん面白くなってきて、お互いに顔を見合わせて笑う。くだらない会話をしながら、舞と帰る。すると、突然舞が。
「ねー。公園によって帰らない?いいでしょ、近いし、夜以外に行ってもさ」
「うん。いいけど」
急にどうしたのだろうか。別に帰りを急ぐ理由もないので、行くことにした。
公園について、2人で公園内を回る。
「久しぶりかも。心音と2人で公園を回るの」
「確かにそうかも」
言われて気づいた。確かに最近、2人で来たことがない。放課後ということもあり、人が多いのかと予想したがさすがに雨が降ってるからか、人はほとんどいなかった。
舗装されている道を歩き、広場を通って最後に東屋に向かう。東屋内で一休みすることにし、2人で椅子に腰かける。何を話すでもなく、ただそこにいた。
「本当に大丈夫?」
と舞が時間が経ってから私に聞く。本当に今日はどうしたのだろうか。・・・公園回って疲れてもないし・・・。
「なんで?元気だよ、元気元気!」
と答えると、舞は困ったような、何か言うか言うまいか迷ったような顔をする。少しの間黙った後に舞は意を決したように言う。
「・・・もうすぐでしょ。2年間見てたからわかるけど、この時期ひどいよ。無理してない?」
言われて、黙ってしまう。言いてることもわかる。思い当たることもある。心配かけてるんだなぁ。ありがたいかぎりである。
「・・・大丈夫。絶対とは言えないけど、今は大丈夫。きつくなったら助けてよー」
最後は明るく言ってみる。
「もちろん。だから言ってね」
「うん」
話が終わり、席を立って帰路につく。前よりはましのはず、たぶん。顔が明るくできただろうか。笑っていただろうか。
今日も雨である。東屋の屋根から雨粒が垂れている。暦上では、夏に入っているが、雨はまだ降っている。
(梅雨ももうすぐ終わりか)
そんなことを考えながら、東屋で物思いにふける。
「♪―――――」
「本当に歌が上手いですね」
「!?」
また、急に話しかけられ驚いてしまう。油断した。誰もいないから、口ずさんでいたら、聞かれていたらしい。
「? あぁ、ごめんなさい。驚かせたみたいで」
私は、何のこととでも言うように、姿勢を正す。それを見て彼は笑いながら隣に座る。私は一つ咳払いをして、訪ねる。
「・・・元気だった?顔見ないから、風邪ひいたかと思ってたよ」
大丈夫だろうか。声裏返ったり、震えたりしてないだろうか。彼は驚いたような顔をして、
「まさか、体調を心配してもらえるとは!!大丈夫ですよ。元気です。忙しくしてましてね~」
なんてことを言う。
「そ、そう。元気ならいいんだよ」
そして、いつも通りに過ごしていく。
急に彼は、口ずさみ、終わると、何かを考えた後に。
「やっぱりうまいですよね。歌。声はきれいだし歌詞もしっかり入ってくる」
急に言われびっくりして、気持ちが定まらない。何を言うのだろう。続きを言おうとしてた彼は、私の顔を見て、ぎょっと驚いた顔をして慌て始める。
「大丈夫ですか。僕、何かしちゃいましたか?ごめんなさい。」
どうしたのだろうか。・・・視界が滲む。私は涙を流していたことに気づく。あぁ、これを見て慌ててるのかとなぜか冷静に考える。何でだろう私にもわからない。
何でもないよ、と言いながら涙を拭き止めようとするが止まらない。
頭の中に急に声が響く。
『本当に心音、歌うまーい!!』
『声がきれいだね、歌に入ったみたいに楽しくなるよ』
『感動する。ねー、一緒にに歌おう』
声と共に場面が一つ一つフラシュバックする。
「・・・大丈夫ですか?」
彼が心配そうに顔を覗き込んでいた。彼の声で戻ってきた。顔を伏せる。だめだ、顔を合わせれない。元の状態に戻れない。大丈夫じゃない。立とうか迷っていると、彼は、席に座り直しこっちを見ずに声をかけてくる。
「大丈夫です。話ぐらいは聞けます。落ち着いてからでいいので。大丈夫です、待ちます。話せなくても大丈夫です」
大丈夫、大丈夫と何回もこえをかけてくれる。あぁ、舞にも同じようにしてもらったけ。
私は泣けるだけ泣いた。声を殺しながら、泣き続けた。
時間が経ち、落ち着いてから私は少しずつ絞り出すように話した。
「・・・私には、姉がいたの。姉は2、3年前に死んだの。時期もこの時期でね、思い出しちゃうんだよね。さっきは、姉が私にかけてくれた言葉と同じで思わず、泣いちゃった。ごめんね」
彼は、ただ黙って聞いてくれた。前を向きながら。そして、ゆっくり口を開く。
「それは、、、大変でしたね。大変で、辛かったですよね。辛いことを聞いてしまいましたね」
そして、「簡単に共感しますとは言えなくて、ごめんなさい。でも、僕でも話を聞くことぐらいはできますからね。関係ない人に話すことで楽になるならいくらでも聞きます」と言ってくれる。なんだろう。下手に同情するわけでなく、あったかい言葉を言ってくれる。少し楽になったな。彼に「ありがとう」と告げ、舞のことを思い出す。舞にも心配かけてるな。今度絶対に話そう。
しばらく静かな時間が過ぎ、彼は、突然立ち上がり、背を伸ばして言う。
「それじゃあ、先輩が秘密を一つ話してくれたので、僕も一つ話しましょう」
彼は、入口まで歩きながら、振り返り言う。
「ぼくは、死んじゃうんです。もうすぐ」
雨は強く降り続け、壁に強くあたり、雨音が響き続けていた―――
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