第5話 呼び方
GWが終わり、5月中盤に入る。新年度の中だるみという、体が重い時期に入った。私はというと、他の人の例にもれず、めんどくさい気持ちが大きくなっている。普段よりもである。動きたくないし、学校もめんどくさい。だからといってさぼれるわけではないので、登校はする。
さて、そんな状態でほぼ日課となっていた夜の散歩の方はどうなっているかと言うと。行っている。行ける時には行っていた。
そして、水無月空とはどうなったのか。最後に会ったのは4月の末。あれからは、会えないでいた。タイミングが悪く、そいうこともある、と考えてはいるが、約2週間が経とうとしていた。
夜、私はいつも通りに公園に来ていた。最初からベンチを目指すのではなく、公園内を歩いてからベンチに向かうことにした。桜も散り、景色が前に歩いたときと変わっていて、一新された気分である。空気も気持ちよく、自然と歌を口ずさむ。変わっていく景色を見ながら歩き、最後にはベンチに向かう。
「きれいですね」
「————!?」
突然声をかけられ、体がビックと震える。一体誰かと思えば、声をかけてきた人物は水無月空であった。
「もー、びっくりした。いきなりなんなの?」
「あはは。ごめんなさい。いや、歌声がきれいだったので」
油断した。歌声を聞かれた。人影を見なかったので、誰にも聞かれないので大丈夫だと思っていたのに。焦って固まっていると、
「何の歌なんですか?・・・どうかしました?」
「い、や、別にどうもしてないよ~」
その発言を聞き、不思議そうに首を傾けている。そりゃそうだ。不思議だろうな。見えないけど動揺が声だけでなく、自分の顔にも出ていることがわかる。
「そ、そういえば、久しぶりじゃない。会うの?」
と明らかに話をそらしてみる。無理かなと思いつつも顔を覗き込む。
「そうですね。久しぶりになりますね。ちょっと、最近忙しくて」
と返し、隣に座る。あれ?と内心思う。上手くごまかせたとは自分でも思わない。だけど、彼はさっきの事については、触れなかった。
「もしかして、寂しかったですか?ごめんなさい。気づかなくて」
「いや、そんなことはないけど」
「即答はさすがにきますね~」
と彼はおどけて言う。寂しいという気持ちがあったかというとそこまではない。少しだけ、本当に片隅ぐらいにはあったかもしれない。
今日もいつも通り、特に何かするわけでなく、のんびりと過ごす。そういえば、と彼が口を開く。
「お互いに自己紹介したわけですけど、どう呼び合います?」
「どうとは?」
「いや、お互いに名前を知ったわけですから、名前を呼び合ってもいいんじゃないかなと思うんですよ。いつまでも、お姉さんや君とかじゃなくて!!・・・それぐらい仲は良くなたっと思うんですけど」
と彼は言った。その提案を聞いて確かにとも思う。私が何か言うよりも早く、「いや、自分んがそう思ってるだけで、そのような仲じゃないと言うならいいんですけど。。。」と早口でどんどん声が小さくなっていく。普段とは違う姿が見えて、意外という驚きと年相応の反応が見えてかわいく感じる。
「そうだね。うん、いいと思うよ。・・・私も一応楽しいとは思ってるし」
と後半は小さくなってしまったが言う。それを聞いて、彼は嬉しそうな顔をうかべている。うん、かわいい。というか、後半聞こえたのか。耳いいな。
何がいいですかね~と言いながら、考える。
「やっぱり、心音さん?心音先輩?・・・心音ちゃん??」
とつぶやいている。うーん、何がいいかなと考えながら、ちゃんはさすがにと思う。
「どれがいいですかね?」
「好きなのでいいんじゃない?」
「じゃあ、・・・ちゃん?」
「さすがにそれはやめてほしいです」
うん、さすがに照れし、ちゃん付けはどうだろう。
「じゃあ、心音先輩でどうですか?学生ぽっいですよ!!」
と言ってくる。先輩かー。いいな。私は部活もやってないので先輩と呼ばれることがほぼない。・・・うん、とてもいい。
「いいと思う!!」
とつい興奮気味に言ってしまう。私はなんて呼ぼうかな。水無月さん?完全に他人呼びだ。水無月後輩?んー普段から呼ぶとなると.....、水無月くん、空くん・・・・。悩んでいる私を見て、
「なんでもいいですよ?心音先輩が良いと思うもので」
と言ってきたので、
「水無月さん?」
ボッソとだが確実に聞こえるように言ってみる。それを聞いて、彼は少し固まっていた。その姿を見て面白くなって吹き出してしまう。それを見てからかわれたのがわかったのか、一息つき、笑顔になって、も―と言い出した。
「うん、なるべく名前で呼ぶよ。水無月空くん、いや、空くん」
それを聞いて彼は、嬉しそうな顔をする。そして、
「呼び捨てでもいいですよ。呼びやすいので!!」
とおどけて言ってきた。うーん、フランクに呼ぶのはだんだんとかなと思う。・・・水無月後輩もやっぱり捨てがたいな。今度呼んでみよう。
それからは、お互いに帰る時間までのんびりと過ごした。何気ないことを話したり、お互いに好きな事をしたりと。帰る時間になると解散する。
今日は、久しぶりに会えて楽しかったと思っている自分がいた。しかし歌っているところを見られたのは失態だったと思う。しかし、彼の優しさからか私が歌っていたことについてはあれから一切触れられることはなかった―――
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