第20話 ラパス王国侵攻作戦③

その日の軍議で明日の昼ごろにこちらの中央軍が敵中央軍に本格的な攻撃を仕掛ける事が決まった。俺たちが敵右翼に壊滅的な損害を与えたからである。敵は右翼の人員を補充するために中央軍から人を割かざるを得ないだろうとの予想だ。そこをこちらの中央軍が潰すという算段だ。明日、両翼はなるべく敵を中央軍から離すように引き下がりながら緩く戦えばいいとの指示だった。これは損害が大きかったルードルス家としてもありがたい。



軍議の後はキースの後任のサイモンから挨拶があった。今まで天雷騎兵団や魔法部隊とは直接的な関わりが多かったが、歩兵と金剛戦士団はキースとカヴァンに任せっきりだったのでほぼ面識がない。

サイモンはキースが公爵領都で猛アプローチを仕掛けて部下にした経緯があったらしく俺は初めてその事を知った。サイモンはファーレンス流とレイド流の剣術上級の実力を持つ上、キースとは違って頭の方も良い。歩兵の事務作業はほとんどサイモンがやっているそうだ。




翌日、空は晴れ渡っていてまさに戦争日和だった。俺たち左翼は敵が攻撃してくるのをひたすら待った。敵も昨日の事もあり中々攻撃してこない。右翼側では既にドンぱちやっているのに対してこちらの戦場は静かな時が流れた。


しかし、1時間も睨み合いが続くと敵は様子見で200ほどの歩兵をこちらに突撃させて来た。こちらはもちろん金剛戦士団で受け止め貴族軍が横から攻撃してすぐに殲滅する。

こんな事を3回も繰り返すと流石に埒があかないと思ったのだろうか敵も主力をぶつけて来た。敵右翼のほぼ全員がこちらに向かってくる。俺は全軍に後退の合図を送る。もちろん、ただ真後ろに後退すればブリュッケン公爵軍の横に敵軍が現れる事になるので外側に開きながらこちらに誘き寄せる。こちらが十分に下がった所でこちらの中央軍から突撃の合図が戦場に響き渡る。どうやら仕掛けるようだ。



そこから終戦までは速かった。中央軍の歩兵同士がぶつかると同時に公爵騎士団が敵歩兵を撹乱するような動きを見せる。それを防ごうとラパス王国騎士団が公爵騎士団を追いかける。逃げる公爵騎士団は少し開けた場所に出ると馬を急旋回させてラパス王国騎士団を迎え撃つ。ラパス王国騎士はあっという間に倒される。しかし、ラパス王国騎士も昨日キースの腕を切り落とした親玉らしき人とその側近の10人程は公爵騎士団を圧倒して公爵騎士団にも被害が出る。そこへ公爵騎士団の副団長のカイリスとその側近が前へ出てラパス王国騎士の親玉と残党を始末する。カイリスは流石公爵騎士団の副団長なだけあってキースが腕を斬り落とされた親玉相手を易々と討ち取った。遠目からでも実力の差は圧倒的だった。


その後は公爵騎士団が敵中央軍の本陣を潰すと中央軍の残兵は敗走した。中央軍は逃げる兵士を無闇に追わず、両翼の援軍に来てくれた。逃げ回って超緩い戦いになっていた左翼も公爵騎士団と中央軍によって敵はすぐに敗走した。




戦後処理なども含めて2週間はかかり、終戦から3週間後には元子爵領都のパルコにて論功行賞が行われた。第一功は公爵騎士団副団長のカイリスだった。キースの腕を奪った親玉はラパス王国のゾーク侯爵騎士団の副団長だったらしい。それを倒したカイリスの第一功は全員が納得する大手柄だ。

第二功はもちろん俺で今回奪った穀倉地帯を貰える事になった。



今回奪った土地は規模で言うと一般的な子爵くらいの大きさだ。その土地を公爵家、ウチ、

その他の貴族で5、2、3で分ける。今回は手柄をたてて騎士爵や準男爵になった人が多いのでうちの取り分が少ないがこれで子爵領が二つ分、つまり一般的な伯爵と同じ規模の領地を持つ事になった。これは子爵としては破格の広さだろう。また、今回の捕虜は千人ほどいたので俺が公爵領都防衛戦で得た捕虜と交換して俺の捕虜達には戦場だった場所の近くにラパス王国を監視するための砦を作らせる事になった。俺の捕虜と交換した理由は敵が穀倉地帯を奪い返しに攻めて来る前に砦を完成させる必要があるため防壁作りに従事していた俺の捕虜が必要だったからだ。もちろん、残った捕虜と新しく来た捕虜にはパクリ万里の長城を引き続き作らせる。


最近、俺はこの世界に染まって来ていると思い始めた。人を殺すにしろ、人を奴隷としてこき使うのも前世では考えられなかった事だ。まあ、別に悪い事ではないのでいいだろう。



そして、腕を失って剣士として働けないキースには諜報員の戦闘訓練をさせる事にした。

キンブルのスラム街の子供達300人を諜報員として育ているが、その重要性から信頼できる人間にしか任せられらない。今は30年以上ルードルス家に仕えて既に引退した従者に任せている。その従者は身寄りもおらず信頼もできるので極秘の諜報員の育成にピッタリだった。その従者には流行病で死んだ事になってもらい、魔の大深林の中にある秘密の訓練施設に篭ってもらった。そこは周りには天雷騎兵団の巡回ルートで脱走者は殺して晒し者にしている。かなり残虐なやり方だが、ただ飯を食わせるつもりはないし、何より存在が面へ出てはいけないから秘密を徹底させる。

その従者は元々スパルタ教育で有名だった上に俺が容赦なく使えない奴は斬り捨てていいと指示しているので元々300人いた子供はもう100人にまで減っている。



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