第21話 デート①

戦争が終わってから2ヶ月後、俺は11歳の誕生日を迎えた。

その頃にはやっと新しく得た土地の割り振りや元子爵領都のパルコのスラム問題が片付いた。新しく得た土地はルードルス家が建てている防壁のすぐそばでラパス王国国境からも距離があるので、一見他に比べて安全だが、ラパス王国が攻めてきた時は簡単に防壁付近まで突破されるので国境付近とそこまで危険性は変わらない。そこで、今まで魔の大森林で訓練をしていた天雷騎兵団の本拠地を防壁と一緒に新たに作られた小さな砦に移してローク平原で騎乗状態での戦闘訓練をさせる。

もちろん、ローク平原でに場所を移したのはもしラパス王国が侵攻して来た場合に即座に対応する為である。

パルコのスラム街の子供達は500人程キースの諜報員の育成施設に送った。もちろん、諜報員の育成などと言える訳もないので衣食住の提供と兵士になる為の訓練と称して子供達を納得させた。大人の方には衣食住と日給銅貨100枚で防壁作りの作業員を募集するとかなりの人数が集まった。本職の職人の日当が銀貨1枚である事を考えると衣食住を提供するとしても日給は職人の半分くらいだろう。しかし、元々ほとんど稼げないスラム街の人間からしたら十分ありがたい話だろう。

ウチの出費も抑えられスラム街も片付く上にスラム街の大人もハッピーになれる。これはwin-winな関係だ。




俺は新しい土地やスラム街の問題が片付いたらすぐに公爵領都へ向けて出発した。これから初めて婚約者のソフィアとデートがある。

実は、戦争からキンブルに帰って来て2週間が経った頃に公爵からデートをして仲を深めろとの催促の手紙が来たのだ。俺としても結婚した時にぎこちない関係にならない為にもデートを重ねる必要があると考えている。しかし、実際にデートへのお誘いの手紙を書こうとすると書く内容が決まらずデートに持ち込むまでに1ヶ月もかかってしまったのだ。俺は一度迷子になった時に案内してくれた事を覚えているがソフィアが覚えてくれているとは限らないからどういう感じで書き出せばいいのかとても迷った。




俺は気分が重いまま公爵領都に着いた。明日は2人でお茶会をしてその後にソフィアの案内で街でデートをする予定だ。もちろん、俺はデートなど初めてなのでキースからマナーや気遣いの仕方などを教えてもらった。キースは迷宮都市でかなりのプレイボーイだったようでかなりその辺に詳しかった。


次の日、俺は緊張しながら城へと向かった。

城に着くと公爵や公爵の息子のサイフォンは不在だったので公爵夫人から簡単な挨拶があった。

挨拶が終わると俺はそのまま城の中庭の2脚の椅子とお洒落なテーブルのあるテラスへと案内された。既に俺の従者としてついて来ていたレオポルドは席を外しており俺は1人で座って待った。

10分もしない内にソフィアと紅茶を運びに来たメイドがやって来た。俺は立ち上がりソフィアに一礼するとソフィアも軽く会釈をした。そしてメイドは2人分の紅茶を注いぐとそのまま城内へと戻っていった。


「ソフィア嬢、初めまして。私が婚約者のアークノイド・ルードルスです。」

「私はソフィア・ブリュッケンです。以前、城でお会い致しましたよね?」

「覚えてくださったのですか?その節はどうもお世話になりました。ソフィア嬢のおかげで迷子にならずに済みました。」

「それは良かったですわ。挨拶はここまでにしてまずは紅茶を楽しみましょう。」


以前、城で助けてもらった時と同じで柔らかい口調だった。俺はテーブルマナーを意識しながら紅茶に口をつける。さすが公爵家の出す紅茶なだけあって、紅茶に詳しくない俺でも高級品だと分かる程上品な味わいだ。

ただ、今はそれどころではなく次の話題を頭の中で考えていた。俺は王都学院について尋ねる事にした。王都学院とは王都にある貴族や大商会の子供の通う学校でその教育水準は国内最高レベルだ。ソフィアはそこに通っている。


「ソフィア嬢、今は学院の休みなのですか?」

「そうです。1ヶ月の長期休暇で明後日までこっちにいるつもりです。そういえば、アークノイド様は学院に通った事はありませんでしたよね?」

「ええ、父が亡くなって7歳で当主になったので学院には行けませんでした。よかったら学院について教えてもらえませんか?」

「もちろんですわ」


それからソフィアから学院の授業や行事、友達について教えて貰った。話の間はずっと緊張していた。

果たして何時間経っただろうか、やっと街へ向かう時間となった。メイドが時間を知らせに来たので俺たちは話を切り上げて街へと向かった。

俺たちは以外は身分を隠した護衛が数人遠くから見守るだけだったので案外貴族だと気付かれるずに街を歩けた。美味しい屋台で買い食いしたり綺麗なアクセサリーの店などを巡ったりした。もちろん、俺は終始緊張していた。

最後には領都の絶景ポイントを案内して貰った。俺はそこでキースの教え通りにアクセサリー店でソフィアが1番欲しそうな髪飾りをプレゼントした。受け取った時のソフィアの顔はとても幸せそうで見ていたこちらも癒された。

城に戻ると公爵夫人が俺に城に泊まるよう勧めて来た。流石に城に泊まるつもりは無かった俺は遠慮したが、公爵夫人の強烈な押しに負けてしまい、泊まる事となった。





夫人やソフィア達と夕食を済ませて1人で城の大浴場を堪能した後、ベットに入った。

すると俺の寝床にドアが開いてソフィアが入ってきた。俺はすぐにベットから身を起こしてソフィアに尋ねる。


「ソフィア嬢、どうかいたしましたか?」

「アークノイド様。今から聞く事に正直に答えてください。」

「わかりました。」


ソフィアが俺のベットに腰掛けて俺の方をじっと見つめる。


「私との結婚は嫌でしたか?」

「いえ、そんな事はございません。聞いた時はとても嬉しかったですよ」

「じゃあ、何で今日一日、詰まらなそうにしてらっしゃったのですか?」


俺は答えに詰まった。そして顔を赤らめながら口を開く。


「ソフィア嬢が…………からです」

「聞こえません。はっきりとおしゃって下さい!」


俺は今度ははっきりとした声で繰り返す。


「ソフィア嬢が可愛いくて緊張したからです!」

「えっ!」


ソフィアの顔がだんだんと赤く染まる。そして俯きながら口を開いた。


「そ、それは本当ですか?」

「はい。初めて城でお見かけした時から可愛いと思ってました。」


するとソフィアは急に泣き出す。俺は公爵令嬢を泣かせてしまったのでどうしようかと焦る。


「実は私も初めて会った時からカッコいいと思っていて父から婚約の話を聞いた時はとても嬉しかったんです。でも、アークノイド様は全然楽しそうにしてくれないから私は嫌われていると思って心配したのですよ。」


俺は驚いた。俺はソフィアは俺の事を政略結婚としか思っていなかっただろうとずっと思い込んでいた。


「じゃあ、私の事は好きなんですか?」


ソフィアが上目遣いで可愛らしく尋ねてくる。俺は赤くなった顔で答える。


「大好きです。」


するとソフィアが俺に飛びついて俺を押し倒すようにハグをしてきた。


「私も大好き。」


普段、少し堅かったソフィアにもこんなに可愛らしい甘え方に俺はキュンと来た。そして俺とソフィアはお互いに抱き合ったままベットで横になった。


「私の事をソフィと呼んで。私はアーク呼ぶね。」

「わかりました、ソフィ」

「それから敬語も禁止!」

「もー、ソフィはしょうがないなぁ」

「それより、さっきから私のお腹に硬いのが当たってるんだけど?」

「しょうがないじゃん、こんなに可愛い子とハグしているんだから。ソフィの胸だって俺に当たってるよ。」

「しょうがないじゃん、大きいんだから。じゃあ、しよ?」

「うん」


その日俺はこっちの世界で初めて女性と1つになった。




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