第19話 ラパス王国侵攻作戦②


次の日、俺は寝場所が悪く背中がバキバキだった。俺は今、天雷騎兵団と一緒に山の中にいる。昨夜のうちに敵の右後方にある山脈まで回り込む為に山の裏まで迂回したのだ。暗闇の中、夜目が効く奴を先頭にはぐれないように4時間かけて移動した。移動前に仮眠をとったから睡眠時間は確保できたが移動中は石がゴロゴロしている中でロクな野営準備をしていない悪環境の中で睡眠をとったので俺を含めみんな顔が死んでいる。こういう状況下を想定した訓練もしないといけないと痛感した。


日が上りきってしばらくすると開戦のしたようだ。遠くの戦場からここまで声が響く。今は左翼の指揮をラーナに任せている。キースは〝ガンガン行こうぜ〟しか知らないアホだから任せられるわけがない。敵にバレないようにするため俺たちの作戦を知っているのはラーナだけだ。きっとうまくやってくれるだろう。


その頃、戦場では開戦の合図はファーレンス王国の右翼から鳴った。右翼が突撃を開始すると同時にラーナが左翼にも突撃の合図が鳴らす。最初にルードルス家を含む歩兵1,400が敵向かって突撃して敵の歩兵と混戦になる。ルードルスの歩兵隊は少なくない犠牲を出しながらも敵をどんどん押し込む。しばらくして敵の弓の射程圏内に入ろうかとする手前まで押し込んだところでラーナが撤退の合図を鳴らして歩兵が一気に後退する。それを追撃しようとするも昨日の戦いで自分達の作戦と似ている為に警戒せざるを得なかった。

これはラーナの作戦なんかではなくただ単に敵に動揺を与えて時間を稼ぐ為の作戦だった。その後も敵を押し込んではは引いてを繰り返して時間を潰した。そしてそのまま大した変化もないままその日は終戦となった。


俺が率いる天雷騎兵団は今日1日で目標地点であった敵の背後の山の中まで進んだ。ここから全力でバトルホースを走らせると1時間もしないうちに敵右翼の本陣にたどり着く距離まで接近できた。俺達はまた寝場所に悩まされながらも早めに眠りについた。


次の日、朝日が登る前には起床して移動の準備を始めた。そして夜明けと共に山を降り始めた。バトルホースを走らせること1時間、

騒がしい戦場が見えて来た。実は3日目の今日、夜明けと共に左翼全体で総攻撃を仕掛けるようにラーナに伝えておいたのだ。味方の1時間に及ぶ総攻撃で敵は前線に戦力の大部分を割かなければならず、右翼本陣の周りは敵が少なかった。俺は天雷騎兵団に突撃の号令をかける。敵は山から俺たちが来ることを想定しておらず、本陣は混乱に陥る。その間に初日に厄介であった敵の弓兵部隊の所へ向かい騎兵団で弓兵を蹂躙する。弓兵を大方始末し終える頃には金剛戦士団までもが身体強化魔法を用いて一気に突撃して来た。これは俺の作戦でも何でもないがラーナからのそのまま本陣を落とせというメッセージだろう。敵の本陣は俺たちが弓兵を始末している間に前線から騎馬隊を呼び戻して本陣を固めていた。俺は天雷騎兵団が騎馬を引きつける間に本陣を落とすように金剛戦士団団長のカヴァンに指示を出す。

そして俺は手綱を握り直して敵の騎馬に向かって突撃する。敵とぶつかると勢いが止まって混戦になる。敵は槍や剣だがこちらはハルバートなのでこちらが有利に思えたが敵の練度はかなりのもので特に馬の扱い方が俺たちより数段上だ。敵は10年単位で乗馬訓練をしているのに対して俺たちは5年も経ってない。

その差は徐々に現れてくる。俺自身も初級魔法のファイアボールを乱れ撃ちしているので何とか持ち堪えているがもうそろそろ魔力が底を尽きそうだ。

すると本陣から歓声が湧き上がる。本陣を見てみると金剛戦士団の団員達が嬉しさが溢れる笑顔でこちらに戻ってくる。どうやら敵の指揮官をカヴァンが討ち取ったようだ。それに気づいた敵の騎馬は明らかに意気消沈しそのまま天雷騎兵団と金剛戦士団に倒された。


敵本陣は壊滅したが前線では味方が損害を減らしながら長期戦に持ち込んでいるので敵も

多い。そこに幅広く展開した天雷騎兵団が敵歩兵に攻撃を仕掛ける。バトルホースの圧倒的突進力があるので広く展開して1人や2人にバラけても敵を圧倒できる。

金剛戦士団は歩兵と魔法部隊の援護に向かわせた。そして1時間もしないうちに敵はほぼ殲滅できた。そして俺を先頭に撤退を開始した。


順調に撤退している途中で後ろが騒がしくなった。俺が後ろを振り向くと最後尾でかなりの数の魔法が飛び交っている。俺は急い天雷騎兵団と共に現場へと向かった。俺たちが着く頃には敵が見えなく距離まで撤退していた。敵が撤退した事に俺が一息付いていると、歩兵部隊の500人隊長の男が慌てて駆け寄ってくる。

「キース様が負傷致しました。急いでこちらに来てください」

隊長の顔はかなり深刻な顔だった。それを見た俺は嫌な予感がしてすぐにキースの元は駆けつけた。駆けつけるとそこには綺麗に切断された大剣で体を支えている片腕のキースがいた。つい1週間前にはあったキースの左腕がなかった。俺は頭が真っ白になった。俺は初めて戦争で大事な人が傷ついけられた。俺は怒りで気が狂いそうだったが何とか自分を抑え込んだ。

キースは悔しそうな顔をしていた。四肢欠損を治せる回復魔法の使い手はこの王国にはいなかった筈だ。つまりキースは剣士として生きる事ができない。

俺はキースを1人にするよう周りに指示して近くにいた兵士から事情を聞いた。中央軍から来た敵の騎兵の隊長がめちゃくちゃ強かったらしい。キースの大剣を綺麗に切断する程の実力の持ち主だ。将級以上の剣士である事は間違いないだろう。


その日、俺は改めた戦場の厳しさを知った。今までは少しの被害で大きな戦功を挙げ続けて来たが山ほど居る俺より強い人間と戦場で遭遇しても何ら不思議はない。

だがそいつらに負ける訳にはいかない。俺は今まで戦争で多くの命を奪った。だが俺はルードルス家の人間が傷つくのは許容できない。例え理不尽や矛盾していると言われてもいい。どんな手段を使っても自分の手の届く範囲のみを絶対に守る。俺はそう心に誓った。

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