第10話 ローク戦争②
少し時を戻る。俺は騎馬隊を連れて敵右翼前線の指揮官のいる陣へバトルホースで突っ込んでいた。俺がハルバードを背後から指揮官目掛けて投げつける。すると、ガキンと大きな音をたてて振り向きざまに剣ではたき落とされた。俺は直感的に敵が強いと感じ、馬から降りる。そして俺は剣を引き抜きバックラーと剣を構える。
俺は詠唱破棄でファイアスピアを4本発動させる。俺は大国の宮廷魔法師でもなかなかできない詠唱破棄を習得している。完全に前世のラノベで鍛えたイメージ力のおかげだ。
相手は俺の詠唱破棄に驚いて僅かに反応が遅れた。俺はその隙を見逃さず身体強化を自分にかけて魔法を避け切った敵に一気に迫る。左から剣を振り下ろしてくる敵に対して、俺は左手に持ったバックラーの凸面を利用して何とかそらすが、相手のパワーが強くて少し左腕が痺れる。それでも俺は痛みに耐えながら右手で持った剣で相手の首目掛けて突きを放つ。俺の刃を相手は避けきれずにそのまま絶命した。
「敵将、アークノイド・ルードルスが討ち取ったり」
俺はそう叫ぶとハルバードの先に首を刺し敵味方関係なく見えるように戦場を駆けた。
敵の撤退の合図に合わせてこちらも撤退になったので俺も自陣に戻る。出迎えてくれたレオポルドが俺が討ち取った首を見て驚きの表情を浮かべる。
敵は中級貴族のバガン子爵で〝怪力〟の二つ名で王国東部でも有名だったらしい。確かに、詠唱破棄による奇襲がなかったら、殺られていたのは確実に俺だ。まだ腕がジンジンしている。
俺はその日の軍議でバガンの首を持っていき提出すると、全員が信じられない様な顔をしていた。公爵も驚くながら、
「文句なしの大手柄だ」
とベタ褒めしてくれた。怪我をした俺の腕を見て明日は敵の攻撃も弱まるであろうから中央軍の隣でゆっくりしていればいいとの公爵からのお許しが出た。確かに敵左翼は崩壊寸前だったからルードルス家がいなくても問題ないだろう。
今日は味方は1500人、敵は2千人の損害だ。こちらは俺たち右翼は大勝利だったが左翼の損耗が激しかった。
俺は軍議が終わったら自陣に戻って武器の手入れをしてすぐに寝た。少しでも早く怪我を治したい。
深夜、俺は慌ただしい喧騒と熱気で目が覚めた。明らかに異常事態だ。剣を持って外へ出ると、至る所に火がついていた。俺はとりあえず風魔法でルードルス家のみんなを俺のテントに集めた。そして急いで消火作業に移った。
うちの人的被害はほとんどないが、うちが持ってきた食料の8割は燃えてしまった。近くの貴族のところに行って状況を聞くと、夜襲でどの貴族もかなりの損害が出たらしい。
夜が明けて俺は公爵のテントに向かった。ちらほら他の貴族もいる。しばらくして全員が集まったところで公爵が現状の説明を始めた。敵による夜襲でこちらの食料が中心的に狙われたらしい。ひどい所では食料が全焼したようだ。全体としては300人死亡、食料5割が失われた。そうして俺たちは援軍を待つ事なく短期決戦をせざるをえなくなった。
夜襲によって兵士達の顔も暗い。夜襲の後は夜襲の恐怖で中々寝付けない者が多かったのだろう。そんな雰囲気の中、開戦の合図が鳴った。俺は中央軍の後陣、公爵の本陣の斜め前に陣取っている。昨日の夜襲で足りなくなった人員の補充だ。とはいってもただいるだけでかなり暇だ。俺たちが働く時は敵が公爵本陣まで迫った時くらいなのでそんな事は起きないだろうと思いながら戦場を見渡しながらのんびりする。
その後も両軍膠着状態だったが、こちらの右軍が敵左軍を打ち破ったところで中央軍のルードルスと公爵陣前に陣取ってる公爵軍騎士団以外が前進して敵中央軍にぶつかる。俺はこちらの勝利を確信し一安心した。
その時、左からテーゼダルク男爵の軍やってくる。伝令と言うには多すぎる人数だ。俺はなんだか嫌な予感がしてすぐさま陣を整える。すると、テーゼダルク軍400ほどが100mほどの距離から一気に突撃してきた。
俺は声を張り上げて魔法部隊にウォール系魔法を展開させる。なんとか魔法で持ち堪えているが魔法が展開されてないところではすでに歩兵部隊が応戦してやや押され始めている。俺は騎馬隊を率いて一気に殲滅をはかる。しかし、魔法で道を塞がれているので敵も一箇所に集中しており中々騎馬で動き回れない。こちらが本格的に厳しくなったところで異変に気づいた公爵騎士団が駆けつけて敵本体に割って入る。公爵騎士団の圧倒的破壊力で男爵軍は一気に殲滅される。
公爵騎士団から一騎の騎馬が駆け寄ってくる。軍議で見たことある顔だ。
「公爵騎士団副団長のアインズだ。この度は公爵様の命を助けてくれてありがとう。貴殿らがいなかったら本陣まで突入されて危なかったよ」
「いえいえ、それより男爵は?」
「しっかり私が討ち取ったよ」
騎士団はこれからこの裏切りについて徹底的に調べるという。それから程なくして今日の戦いが終わった。敵は既に崩壊しかけており我先にと国に帰って行く。
それから1週間ほどかけて撤退する敵に対して追撃戦が行われた。我がルードルス家は多くの戦功を挙げたので公爵領都でお留守番だった。そして追撃戦が終わってから10日ほどで城にて論功行賞が行われた。
第一功はもちろん俺。〝怪力〟を倒し、公爵の命まで救った。文句なしだろう。第二功は俺と同じ騎士爵のガーベスト騎士爵だ。追撃戦で敵右翼の将を狩ったらしい。ガーベストは俺より少し年上の23歳で年が近いため少し親近感が湧く。
俺は二階級上がって男爵になって金貨500枚を褒賞金としてもらった。さらにルードルス家にちょっかいを掛けてきて報復に会って夜逃げしたクルッカス男爵領をもらうことになった。
子爵までは今回みたいな大きな手柄を立てると2つ上がるらしい。ちなみに子爵以上だと国を救うくらいしないと2つも上がらない。
裏切り者のテーゼダルク男爵は自らの贅沢で金が足りなくなりラパス王国の商会に金を借りてたらしい。それで借金チャラで亡命するのを条件に今回の愚行に及んだみたいだ。事前の情報より敵が多かったりこちらの食料がピンポイントで焼かれていたのはテーゼダルク男爵の手引きだったようだ。
テーゼダルク領は第二功で新たに準男爵となったガーベスト準男爵と公爵で半分に分ける事となった。
俺はルードルス領に帰る途中に男爵領都に向かった。男爵領都は一万人が住んでいて小さな草原にぽつりと佇んでいる。領都にはもうすでに公爵騎士団が入っており、旧クルッカス男爵領がルードルス領になったことをを市民に発表し、俺の到着を待っている。
俺は到着してすぐに新体制を発表した。
領民はルードルス領と同じ扱いにした。
税が6割から4割に引き下げ
市民税は銀貨10枚から銀貨5枚に引き下げ
男爵はかなりの悪政のおかげで俺の標準的な税率は大歓迎された。そして今まで男爵邸で働いていた人は不正などが多いので全員解雇し、なんとか男爵家を持ちこたえさせていた少数の文官たちは1.5倍の給料で雇うことにした。
領都の衛兵500人ほどの衛兵は一旦解雇してこの都市の衛兵とルードルスの兵士の2つの道を用意した。すると意外にも衛兵400人、兵士100人と給料の高い兵士が思ったより少ない。よく見てたらと衛兵は30後半の人が多かった。家族もいる上、今さら戦場に行っても活躍できないと思ったのだろう。
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