第4話 初陣

7歳のうちに初陣が決まった俺は、人を殺すことに慣れるため街道に現れた盗賊の処刑をすることになった。

いくら前世の死の倫理観をなくしたといっても本能的に殺すことに対して忌避感を覚える。


処刑当日、アルフォンス、アーサー、従者長のレオポルドがいる外へ出た。剣を渡され、構えると盗賊と目が合う。盗賊の顔を見た途端、手が震える。俺はこれから人を殺すという恐怖に襲われた。アーサーが俺の頭に手を置いた。

「お前は貴族になるんだ。領民のために盗賊は殺さないといけない。覚悟を決めるんだ。」

俺はしばらく目を瞑り、決意した。俺は今から盗賊を殺す。これからも、どこの誰かも知らない他国の人と殺し合いをするだろう。それは大義がない一方的な侵略かもしれない。それでも構わない。

この世界では弱者は殺され強者は何をしても許される。俺はこの世界で生きていく決意を固めた。

俺は心臓を綺麗に一突きした。俺は初めて人を殺した今日を忘れないだろう。




それから一週間後、俺の初陣する日が決まった。長年争っている隣国のラパス王国との小競り合いだ。ファーレンス王国より少し小さいくらいの国で近年は負け続けている。

規模は500人くらいでルードルス家の隣の領の

ポーズ子爵が指揮をするらしい。ポーズ子爵はルードルスと同じくブリュッケン公爵を寄親とする貴族だ。ブリュッケン公爵は現国王の叔父で本当は先代の国王になるはずであったが、国王だと戦場に出れないという理由で王位継承権を破棄した超武闘派貴族で王国の東の防衛を任されている。

ポーズ子爵は優秀ではないらしいが公爵からのお目付役も派遣されるので大丈夫だろうと判断されて俺の初陣と決まった。





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🟥    ルードルス

🟢    公爵領都

ー    公爵領

A 魔の大森林

⭐︎    ポーズ子爵領

○ クルッカス男爵領

■    ラパス王国






それから2週間後、ルードルス家からは50人の兵士が門の前に集まった。ルードルス家従者が30人、徴兵した領民が20人だ。少ないと思うかもしれないが、本村200人、東村50人の計250人しかいないから妥当な数だ。

率いるのはアーサーでアルフォンスはお留守番だ。俺と一緒にクリストフも来ていて護衛に従者長のレオポルドがいる。


村のみんなに見送られてから歩き続けること1週間、俺たちはやっと戦場に着いた。下っ端貴族だから、馬に乗れるのはアーサーだけだ。そのアーサーも戦う前に馬が疲れないように馬をひいて歩いている。俺はけっこう足が疲れていた。さらに野宿で背中もバキバキだ。コンディションは最悪と言っていいだろう。それでも従者達は慣れているのかそこまで辛そうには見えなかった。

戦場には他の貴族の軍も続々と到着していた。俺たちは身分が低いので中央から離れたところで野営の準備をした。しばらくすると中央のテントから軍議の使者が来たのでアーサーが出て行った。夕食の時間になるとアーサーが帰ってきた。

俺たちは先陣らしい。騎士爵や準男爵は先陣が当たり前だという。そんなに優秀な子爵じゃないと聞いていた俺は突撃あるのみみたいなアホな作戦をするのかと思いきや公爵から派遣されたお目付役に止められたらしい。

アホな作戦で死ぬなんてたまったもんじゃない。


俺たちはしっかり夕食をとってすぐに眠りについた。



初陣当日、夜明けは霧が広がっていたが兵士が動き始めるとだんだんと晴れていった。


ルードルス家は左翼前線に配置された。静かな緊張感が漂う中、突撃の号令がかかると一気に騒がしい戦場へと変わった。

アーサーの馬を先頭に俺たち50人は突撃した。横を見ると俺たちのように突撃してる集団がいくつかある。最初に飛び出す理由は他と一緒に突撃すると前から敵、後ろから味方に押し潰されてしまうからなるべく速く敵陣内部に入り込むためだ。アーサーが道を切り開く中、俺とクリストフは集団の真ん中より少し前にレオポルドと3人で固まっていた。俺たちは自分から襲いかかることはせず、襲い掛かられてから切り捨てるようにしてなるべく集団から遅れないように進んだ。

俺は、前方左に少し豪華な鎧を着た隊長らしき男を見つけた。突撃時以外に身動きの取りづらい馬に乗ってる人はいないので、手柄の首を探すだけで一苦労だ。俺が先頭のアーサーに伝えると、俺たちは手柄目掛けて一直線に進んだ。偉そうな鎧の周りには明らかに強そうな人が多い。俺が目眩しも兼ねてファイアボールを前方に10個ほどばら撒くとクリストフも続いてストーンボールを打つ。それにアーサー達がさらに続いた。俺たちは完全に敵陣の中で孤立しているので敵に襲われないよう背後に半孤状にファイアウォールを張る。すると前方で炎が上がった。アーサーは風属性だから違う。敵の指揮官だろう。俺はレオポルドにここを頼むと言ってアーサーの元に行くと指揮官と対峙しているアーサーがいた。

二人は互角のようだった。敵の火魔法をアーサーが風で押し返してる。俺はアーサーから少し離れた位置でウォーターボールを打ちまくる。火に水は基本だ。敵の指揮官の苦しそうな顔を見た俺はアーサーと顔を合わせる。

直後アーサーが少し大規模な魔法の準備を始め、俺が3属性のボール系の魔法を打ちまくる。一つ一つの威力は俺の方が弱いが数で勝負だ。

魔力使い切り説は正しかったようでほんの少しずつしか魔力は増えないけど絶えず努力してきたので俺の魔力量は大人の魔法師となんの遜色はない。

アーサーが魔法の準備を終え魔法を放った。同時に俺は身体強化魔法を使い、一気に相手の懐に飛び込む。敵の実力ならばアーサーの魔法は止めれるはずだ。俺の読み通りなんとか防御の間に合った敵の姿があった。俺は一気に剣を振り下ろし首を斬り落とした。

「敵将、このルードルス家が討ち取ったぞ」

俺は風魔法を使って戦場全体へ伝える。これでこちらが優勢になるだろう。


敵将を討ち取ったといってもたかが前線指揮官で俺たちはまだ敵陣のど真ん中だ。俺たちは急いで横へ敵軍を切り分けながら、なんとか敵軍の側面に達してそのまま脱出した。突撃して敵将を取ったから俺たちの仕事は終わりにさせてほしい。これ以上の犠牲は払いたくない。左翼の前線を見るといくつかの貴族家は俺たちのように敵陣の中で奮闘してるが、子爵の徴収兵の前線は多くの犠牲を払いながら前線を維持していた。

俺たち下級貴族は魔物の多い地域に多いので徴収兵は割りと強い。しかし、中級以上の貴族は比較的安全地域に多いため、領兵は強くても徴収兵は弱い。

すると、後ろから子爵の軍150が敵本陣に向かって突撃してきた。敵中央を半分くらい突破したところで敵は撤退の合図を出した。敵は急いで撤退していった。


アーサーと俺は本陣に呼ばれ、簡易的な論功行賞が行われた。第一功はルードルス家だった。左翼敵将を討ち取ってそこから形勢がこちらに大きく傾いたからだ。その敵将は準男爵で火魔法の使い手としてここら辺で有名だったらしい。確かに火魔法単体の威力は強かった。第二功は右翼の男爵、第三功は子爵兵の隊長だった。遠目に見てもわかるくらいの破竹の勢いだった。今回はポーズ子爵が中心の小競り合いなので本来第一功の子爵がいないとはいえ、初陣で第一功は大手柄だろう。


論功行賞が終わったあと、俺とアーサーは褒賞を何にするか話し合っていた。こういう小さな小競り合いでは褒賞は希望制なんだとか。流石に上級貴族や国主導の戦争は希望とはいかない。

さておき、俺たちは敵の武器、鎧をもらうことにした。金は今までずっと貰い続けてけっこう溜まってきたから要らないらしい。馬にしようかと思ったけど飼育できる人がいないし、維持費もかかるので却下。全てをもらえるわけでもなく、子爵家と半分ずつ分ける。それでも100人分はもらえた。俺たちの損害は6人だった。他と比べるとマシな方らしい。その夜、アーサーは子爵の宴会に参加したが俺とクリストフは興味がなかったので自陣でゆっくりした。

そして次の日、俺たちは村へと帰っていった。



俺たちは1週間ちょいかけて村まで戻ってきた。俺の活躍に村中大騒ぎした。村でも宴会が開かれ今回は俺も楽しんだ。アルフォンスにもめちゃくちゃ褒められ、俺は最高の気分だった。



次の日から修行と勉強の今まで通りの生活が戻ってきた。この時が最後の穏やかな日常だったのかもしれない。

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